« 新作刊行 | トップページ | 恋愛睡眠のすすめ »

トム・ヤム・クン!

 原題(の英語タイトル)も『TOM YUM GOONG』。海外市場を意識した日本映画に『SUKIYAKI』と付けるようなものか。まあ一応、トム・ヤム・クンとは陰謀の舞台となるタイ料理レストランの名前なんだけど。監督も『マッハ!』の人。前回は盗まれた仏像を取り返しにタイの片田舎からバンコクに出向いたわけだが、今回は密猟された象の親子を取り返しにタイの片田舎からシドニーにまで行ってしまいましたよ。

 というわけでオーストラリア警察の腐敗に中国系マフィアまで絡んできてスケールは大きくなってるんだが、脚本には前回以上にいろいろと綻びが目立つ。前回はトニー・ジャーが都会へ出るのに、村中総出でカンパしてくれたのが妙に地に足ついてたんだが、今回はどうやって資金を捻出したんだとか、「ジョニーがすべて知っている」という言葉と店(トム・ヤム・クン)のエントランスの写真だけでどうやって場所を突き止めたんだとか、ヒロイン(?)の彼氏の借金の話はどうなったんだとか、ジョニーの退場の仕方は続編への布石なのかとか。しかしアクションは前回同様、工夫が凝らされ、前回以上に見せ方が巧くなっていた。ボートチェイスとか、倉庫でのチンピラ戦とか。カポエラ使いまで登場したのには、ちょっとびっくりしましたよ。とはいえ終盤はネタが切れたのか、後から後から涌いてくる雑魚戦闘員に、ひたすら骨をひしぎ続けるシーンは、やや辟易した。最後の対戦相手が白人の大男ってのも、お約束というより芸がない。しかも数が増えてるだけってのがどうもな。

 キャラクターも前回以上に立ってなかったしな。キャラ同士の関係が乏しく、それぞれにあまり必然性がない。ペットターイ・ウォンカラム(タイのコメディアンらしい)は、前回よりも個性が活かされてておもしろかったけど、必然性があるかっていうと、あんまりない。トニー・ジャーは前にも増して演技のパートが少ない。台詞が「象を返せ!」しかないよ……。表情とか仕草とかは前より巧くなってるように思えるんだけど。しかし作品中、最も演技力があったのは、象の子供でした。いやほんと、芸達者で可愛いんだ。

 そんな感じで、アクション映画以外の何ものでもないわけだが、タイ人が外国人と結託して希少動物を密輸出してるというのは、『マッハ!』の仏像同様、タイが実際に直面している問題なわけだ。仔象が愛らしいだけに、胸の痛む話である。

 ちょっと不思議に思ったのが悪役の造形で、前回は機械を使って発声する車椅子の男、今回は両性具有(?)の中国マフィアと、いずれも肉体的にスティグマを付与されている。監督は何かこだわりがあるんだろうか。しかしその割には折角の設定が活かされてないし、キャラクターの掘り下げもされていない。前回の悪役も、最後は普通に喋ってたしな。結局なんだったんだ。

 敵が中国系マフィアということで、「タイ人から見た中華風」世界というのが、本場の香港映画等とは微妙にずれがあって興味深かった。ずれと言っても考証の間違いとか勘違いとかではない。そもそも、香港映画だって考証もへったくれもないわけだし。敢えて言うなら、色彩感覚の違いだろうか。

|

« 新作刊行 | トップページ | 恋愛睡眠のすすめ »

鑑賞記」カテゴリの記事