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新作刊行

 というわけで、1年と5ヶ月振りの新作『ラ・イストリア』が明日出ますよ。オリジナルってことなら、2年と9ヶ月振りだ(そして、ようやく二作目だ)。ハヤカワ文庫、税込756円、解説は香月祥宏さん。今回、私のあとがきはありません。表紙イラストは文庫版『グアルディア』に引き続き、D.Kさん。それから今回も地図制作は妹Ⅱ(二人いるうちの下のほう。グラフィックデザイナー)です。

 以前お知らせに書いたように、『ラ・イストリア』は単独でも読める作品ですが、『グアルディア』と相補的な関係にあるので併せて読んでくだされば、よりおもしろいかと思います。どちらを先に読んでも問題ありません。『ラ・イストリア』の最後のシーンは、『グアルディア』第3章の「あのシーン」へと続きます。この二作品のストーリーや設定の関係については、香月祥宏さんが簡潔に解りやすくまとめてくださっているので、そちらを参照してください。

 以下、興味を持ってくださる方々だけに向けた補足。『グアルディア』文庫版あとがきに書いたが、この作品の原型となったのは「生体甲冑」というガジェットを軸とした連作(のプロット)である。その中にはすでに、『ラ・イストリア』のプロットも含まれていた。2004年の『グアルディア』刊行から改めて連作として構想し直すことによって、この「大災厄後の世界」は、生体甲冑という一個のガジェットでは捉え切れないほど大きく、深く広がった。新たなテーマを敢えて述べるなら、「人類の変容」となるだろうか(大風呂敷だなあ)。『ミカイールの階梯(仮)』は、そのテーマによって書かれる作品になるはずである。

 それがなぜ、2006年2月、『ラ・イストリア』を書き始めてしまったのか。なぜ25世紀初頭の中央アジアではなくて23世紀半ばのメキシコの話を書いているのか、自分でもさっぱり解らないまま1年間苦闘し続けてきた。今にして思えば、たぶん大風呂敷を広げるその前に、原点となる「生体甲冑の物語」をきちんと書いておきたかったのだろう。これを終わらせなければ先(『ミカイール』)へ進めない、というのは、そういう意味だったのだ。

 ……とかなんとか言ってみましたが、私が小説を書く上で最も力を尽くすのは、テーマやらメッセージやらではないですよ。「すでにある枠組み」にどれだけ歪みや捻れを加えられるか。それこそが私にとって小説を書く最大の愉悦の一つであり、血道を上げることなのです。『グアルディア』は、「文明崩壊後の世界で、ロストテクノロジーを復活しようと目論む悪役とそれに巻き込まれる主人公」というありがちな枠組みを、散々歪みや捻れを加えることであたかもウルトラバロックの教会建築(構造自体は単純だが、装飾が異様に過剰)のごときに仕立て上げました。ノベライズはTVアニメという枠組みをあくまで遵守しつつ(原作あってこそのノベライズですから)、水面下で「どれだけ読者に気づかれずに歪み捻れを加えられるか」に力の限り挑戦していました。まったく何も気づかなかった人もいれば、なんとなく違和感を覚えた人もいるようですね。「気づかれずにやる」ことが命題なわけですから、少しでも違和感を覚えられてしまうのは「失敗」になるのですが、完全に「成功」してしまうのも、それはそれで寂しいような気がして複雑でした。

『ラ・イストリア』の枠組みは「強力な兵器を偶然手に入れ、ヒーローとなってしまう少年」という物語です。しかし『グアルディア』以上に歪みと捻れを加えたために、その枠組みはほとんど原型を留めていません。主人公だった少年が主人公じゃなくなってるし。枠組みに気づかない人も出てくるのではないでしょうか。そういうわけなので、「強力な兵器を偶然手に入れてヒーローになった少年が活躍する話だと思ったのに、全然違った」と怒る人はいないだろうと思います。いや、絶対いないとは言い切れないな。どうだろう。

 刊行が楽しみです(カテゴリー「著作」にリンクを追加しました)。

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