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ブラックブック

 父は私とあまり趣味が合わないので、週末のレンタルビデオ店ではいつも揉めるのだが、『スターシップ・トゥルーパーズ』の「1時間で死者10万人」で笑った人なので、ほかがどれだけ合わなくてもまあいいや、と思える。「今まで観た戦争映画で一番よかった」のが『ジャーヘッド』だとも言ってたしな。

 というわけで、『ブラックブック』。さすがバーホーベン監督である(ほかの作品、観たことないんだけど)。ハリウッドがバーホーベンにこういう映画を撮らせることができなかったという事実は、後者にとってだけでなく前者にとっても悲劇である。才能の持ち腐れさせちゃったね。

 占領下、そして解放後のオランダ人たちの振る舞いは、『戦争の法』を思い出させる。占領軍がナチスだし、バーホーベン作品だしということで、作中で直接流される血の量は自ずと桁が違ってくるのだが。しかし「占領」という行為がその地の住民たちに最低限とはいえ「生活」させておくのであって、殲滅するのでも拘禁するのでもない以上、黒でも白でもない灰色の領域が占領する側もされる側も広く覆うことになる、という点では同じである。

 ヒロインのカリス・ファン・ハウテンは、単に容姿や演技力だけでなく、「好きなバーホーベン作品」に『スターシップ・トゥルーパーズ』を挙げているという点で、まさにバーホーベン作品のヒロインに相応しい。ハリウッドへ「進出」なんかせずに、ヨーロッパで広く活躍してほしい。しかし、彼女が200リットルもの汚物を浴びるシーンの撮影後、「彼はすぐに私のところへ来てくれたの。そんなことをする必要もないのに、自分も私と一緒に汚物の中へ入ると言ってきかなかったのよ。それほど深い愛情と思いやりを持った人なのね」(パンフレット掲載のインタビューより)だそうだが……いや、絶対あのおっさん、「美女と一緒に汚物塗れ」になりたかっただけだと思う。しかもその時、彼女は半裸だし。

 キャラクターの造形は皆、いい意味でシンプルであり、鬱陶しい心理描写などなくてもステレオタイプに陥ってはいない。最もわかりやすい悪役であるフランケン中尉でさえ、そのわかりやすさが実にえげつなく、凡庸とは言い難い。唯一、ステレオタイプのナチ将校だったのが、クリスチャン・ベルケルが演じたカウトナー将軍。投降後の保身の巧さとか、いい味の片鱗は出てたんだけどね。ベルケルは『ヒトラー 最後の12日間』でもナチ将校だったが、その時は良心的な軍医だったな。

 しかしこういう作品が撮れたからには、次こそは是非、『難破船バタヴィア号の惨劇』(マイク・ダッシュ、アスペクト)を映画化してほしい。やはりハリウッドではなく、オランダで制作してこそだろう。レジスタンスの暗部の次は、大航海時代の暗部だ。『ブラックブック』はオランダ国内だけでは資金が賄えなかったそうだから、『バタヴィア号』ではオーストラリアにも出資してもらえばいい(オーストラリアの領海内で難破してるから)。途中で追放された士官とその部下たちにもスポットを当てれば、陰惨なだけの話にはならないと思うし。

 話は戻るが、『スターシップ・トゥルーパーズ』を観たのは3年前の今頃。『グアルディア』刊行に向けての加筆修正のためである。正確な数字は忘れたが、2002年秋の初稿完成時の400字詰換算枚数は、950枚余りだった。で、改稿の結果、最終的には1060枚か1070枚(だから、Jコレ版あとがきでは「約千枚」という表現をしているのである)。もちろん、単に100枚余りを書き足したというんではなくて、加筆修正は全編に及び、シーンによってはまったく別のものに書き換えたりもしている。中でも一番書き直しが多かったのは、第七章の地下要塞での殺戮と、第八章のサンティアゴ降臨。人がばさばさ、ぐちゃぐちゃ殺されるシーンなんか詳細に書いても仕方なかろう、と描写を控えめにしていたんだが、塩澤編集長からは、人がばさばさ、ぐちゃぐちゃ殺されるシーンを詳細に書くよう要求される。じゃあ何か参考になりそうな映像作品でも、と選んだのが『スターシップ・トゥルーパーズ』であった。実際に具体的に参考になったのかどうかは自分でもよく判らないんだが、とにかく鑑賞して大いに意気軒昂となり、その勢いで二つのシーンを書き直した。単純に増えた枚数だけでも、計70枚余りになる。それはそのままOKを貰い、つまり現在Jコレ版ならびに文庫版で読めるわけである。

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