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グアンタナモ

 邦題の恥ずかしいサブタイトルについては後述。あまり出来はよくないが、グアンタナモ収容所について初歩的な知識を得るにはいいんじゃないかと思う。

 事件自体は、ごく平凡なムスリムの青年たちが、偶々選択を誤ったためにテロリスト扱いされてグアンタナモ収容所で虐待を受ける、というものだった。主題にするなら、グアンタナモ収容所の「実態」か、無実の青年たち――それも英国育ちで英国籍を有し、熱心な信者ではなく英国社会に同化している――が過酷な運命に巻き込まれるその理不尽さのどちらかにすべきだろう。主題が定まっていないために、ひどく半端な作品になってしまっている。

 映画の構成自体も、ドキュメンタリータッチで再現映像と実際のニュースを交え、そこに本人たちのインタビューを挟むというもので、どうにも中途半端だ。またこの再現映像が出来がいいとは言えない。ハンディカムで撮った映像っぽく処理してあるんだが、妙に臨場感がない。映画的な演出をしないことで「真実」だと強調したかったのかもしれないが、真実も何も再現映像だってのは観てるほうには解っているのだから、却ってあざとく、安っぽく感じられる。なお悪いことに、事件そのものにまで安っぽい印象が加わりかねない。過酷な体験を淡々と語る本人たちの冷静さには感心したが、再現映像が俳優によって演じられているというのを繰り返し思い出させられるので興醒めだ。本人たちを登場させるなら、最後だけにするべきだった。

 私としては、収容所での米軍の非道振りをねちねち描くよりは、原題THE ROAD TO GUANTANAMOどおりの内容にしたほうがよかったんじゃないかと思う。彼らが英国でどう暮らしていたかとか、友達の結婚式に行くという気楽な旅行の様子とかをもっと丁寧に描けば、戦場の恐怖、米軍の非道がより際立っただろう。先進国の都市生活にすっかり馴染んだ彼らの一人は故郷であるはずのパキスタンで下痢をし、バスに置いて行かれるのだが、アフガニスタンとの国境でちゃんと友人たちと再会できる。その呑気さと、後で別の一人がはぐれてしまい、それきり生死も不明という怖さとを対比させることもできたのに、ただ漫然と流している。

 約1時間半の尺で、最後まで彼らの顔と名前が一致しなかった。パキスタン系の顔を見慣れていないから区別がつかない、というわけではなく(本人たちと再現映像の俳優たちが別人なのは一目瞭然だったし)、彼らが個人として描かれていないからだろう。要するに制作者は、「物語」としての完成度を高める努力をことごとく放棄しているように思える。実際に起きた事件に基づいていようがなんだろうが、「事実」というのはその時その場で起きたことだけであり、たとえ当事者であっても後から誰かに語る時点で、意図しようとしまいと解釈や作為が入り込む。語り出すまでもなく、「思い出した」時点ですでになんらかの選択と解釈が働いている。それはもはや事実ではなく、「物語」だ。まして当事者以外によって語られるものならば。

 邦題には、「僕達が見た真実」という羞恥心のないサブタイトルが付けられている。制作者たちはそこまで厚顔ではないにしろ、事実に基づいているということに胡坐をかいて、語りを垂れ流しているだけのように思える。物語は、人に伝わるものにしなくてはならないし、事実に基づいているのなら尚更、伝える努力をしなければならないだろう。その努力を放棄するのは、起きた出来事とそれに巻き込まれた人々に対する敬意の欠如だと言わざるを得ない。もしかしたら、「伝える努力」を精一杯やって、この出来なのかもしれないけどね。

 ま、最初に言ったとおり、初歩知識を得るくらいにはちょうどいいかと思います。それから、ドキュメンタリー或いはノンフィクションの在り方について考えさせられる作品でもあります。後者は明らかに制作者の意図から外れてますが。

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