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イルスの竪琴

 たぶん最も繰り返し読んだ小説。さすがに近年は全三巻通しでの再読はしていないが、部分的な拾い読みなら今でもちょくちょくやってるので、カテゴリーは思い出し鑑賞記じゃなくてこっち。

 いわゆる異世界ファンタジーは、いわゆる世界設定について読んでる途中でいろいろ要らんことが気になってしまうので、ちょっと苦手である。しかしこの『イルスの竪琴』三部作(『星を帯びし者』『海と炎の娘』『風の竪琴弾き』パトリシア・A・マキリップ 早川書房)は別格……というか、「そもそも世界設定なんて、大して重要じゃないんだ」と思わせてくれる。それくらい、ほかの要素がしっかりしているのだ。イラストが山岸凉子なのは、かなり貴重だろう。ちょうど1979~81年の、和と西洋ファンタジーの融合した作風だ。残念ながら現在は古本しか入手できないけど。

 とにかく全編にわたって描写が素晴らしい。繊細かつ重厚。美しいが、決してけばけばしくはない。喩えるなら、松明で照らし出された坑道の壁面に輝く宝石の原石。或いはよく磨かれ光沢を帯びた木の、木目と調和した浮き彫りや象嵌細工の美しさだ。情景描写はもちろんだが、特に好きなのは人物の描写。内面の描写は非常に少ない。その代わり、表情や仕草の描写がとても詳細だ。肩を竦める、目を伏せる、顔を覆う、眉をひそめる……それらが、独白や説明などより遥かに雄弁にキャラクターたちの心情を伝えてくれる。一方、容姿や服装の描写については、きちんとなされているものの、ごく軽くなので想像の余地がある。また、舞台となる世界はさまざまな法則に支配されているが、それについての説明もほとんどない。散在する情報の断片を繋ぎ合わせて推測していく必要がある。

 ネタが作品になるまでにはいろんな段階があって、話の筋や設定、キャラクター造形などは当然ながら最も根底の、土台となる段階だが、それらを「小説」という表現形態にする段階で、私はこの作品から随分影響を受けているんだと思う。何しろ初読が二十年も昔なので、もともとそういうスタイルが好きだったから『イルスの竪琴』をここまで好きになったのか、この作品が好きだからそういうスタイルが好きになったのかは、もう自分でもわからないのですが。

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