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ワールドコン萩尾望都企画

 横浜はあんなに涼しかったのに、神戸は相変わらず暑いよ。

 本人を迎えて、2時間のパネルディスカッション。パネリストはほかに小谷真理と島田喜美子(敬称略)。あまり広くない会場に、200人超の入り。15分前から並んだけど、後ろのほうにしか座れなかった。立ち見もたくさん。ワールドコンの企画は大概、男性客ばっかりだったんだが、これはさすがに女性が多い。男性も2、3割はいたけど。えーと、萩尾望都の各作品について、以下ネタバレがあるかと思われます。

 企画名は「『バルバラ異界』と『ポーの一族』のはざま~はるかなる不死の夢によせて」。後者では不老不死の一族が描かれるのに対し、前者では非常に短命な一族として生まれたため不老不死の夢を追う科学者が物語を背後で操る。両作品は実は合わせ鏡のような構造をしているのではないか? という島田の問い掛けから立てられたこの企画だったんだが。作者は「いえ、そのようなことは全然考えてませんでした」とあっさり粉砕する。ま、それでお終いということはもちろんなくて、『バルバラ異界』を皮切りにこれまでの作品がどのように作られてきたか、パネリストやオーディエンスからの質問に答える形で語られた。

 聞いていて思ったことは、どうもこの人は自分の作品について(テーマ、構造、制作過程等をひっくるめて)、言語化して説明するのが苦手なようだ。「引き込まれるような画面構成は、意識的に描いているのか」という質問には、「もちろん意図したもの。ただ、言葉では説明できない」とはっきり答えていたが、そのほかの質問には「あまり考えていなくて……」という答えが多く、途中で「だいたい何も考えずに描いていて、後で評論家の皆さんに解説してもらって、ああそういうことだったのか、と感心しています」という発言も。

 全部言葉で説明できるなら、漫画という表現形態を取る意味がなくなるので、当然と言えば当然である(それを敢えて言葉で解析するのが、評論家の仕事だろう)。この場合、思考過程を本人が言語化できないというだけであって、思考過程が「無い」のではない。そういうわけで「考えていなかった」に加えて「行き当たりばったりだった」という恐ろしい発言もぽんぽん飛び出した『バルバラ』は、萩尾作品の中でもとりわけ制作過程の言語化が困難な作品のようである。「行き当たりばったり」とする理由の一つとして、作者は短編でも長篇でも常に結末をきっちり決めてから描き始めるのだが、『バルバラ』は結末を決めずに描き始めた数少ない例外だとしている。それで完成したのがあれほどの傑作だったのは、持って生まれた才能と長年培われた技巧の為せる技であって、余人が真似できることではない。いや、真似しちゃいかんよ。

 結末を決めずに描き始めた数少ない例外は、『バルバラ』ともう一作『スター・レッド』だけだそうである。両作品とも「世界の修復」(この言葉は本人談)という結末を迎えたのは、たぶん意図してのことではないだろう。さて「世界の修復」という結末はもう一つ、作者は言及しなかったが『銀の三角』がある。私はこれがすべてのSF(漫画・小説・映画等を含めて)で五指に入るくらい好きだが、それはさておきこの三作品とも「修復後の世界」は完全ではない。つまり完全なハッピーエンドではない。嫌なこと、悪いことはすべて消え去りました、では単なる絵空事になってしまうから、私はこうした「不完全な修復」を良しとしてきたし、作者もそうなのだろうと思っていた。ただし『バルバラ』の「修復後の世界」は、物語が終わった時点ではよいのだが、さらにその先に想定されている未来は納得できないものだった。「みんな一つになる」世界なんて、どうにも気持ち悪くて嫌だ。

 で、作者自身もやっぱり『バルバラ』の未来は嫌なんだそうである。すべての人間が精神を共有してしまえば憎しみなど決して起こらなくなるだろうし、そういう世界が楽で心地よいだろうとは思うけれど、それでも嫌だという。そう聞けただけでも、この企画に行った甲斐があるというものだが、ほな『スター・レッド』と『銀の三角』の修復後の世界とその未来について作者はどう捉えているのか、質問したかったんだけど当ててもらえなかったんだよ後ろの席だったから。これと後もう一つ、『銀の三角』の続編を考えている、という古いインタビュー記事をどこかで読んだことがあるんだが、まだその意志はあるのか、もうなくなっているとしたら当時はどんな構想を持っていたのか、是非とも訊きたかったんだけどなあ。無念だ。すごく無念だ。もっともその記事についてはもはや記憶も曖昧で、ひょっとしたら『銀の三角』があまりに好きだったから願望が記憶を捏造してるんじゃないかって気までしてるんだけど。

 因みに『グアルディア』には萩尾望都作品へのオマージュとなる二つのエピソードがあります。それぞれ『スター・レッド』と『半神』だ。

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