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言語問題

 先日、『ラ・トラヴィアータ』(バーデン市立劇場)を観た。アルフレードのおとん役のゲオルグ・ティヒー以外はみんな声量が不充分だったなあ。そしてこの人は非常にゆっくり歌うので、オーケストラが合わせづらそうだった。演出は一切捻りがなく、オーソドックスというか無難というか。

 この上演で最も特異だったのが字幕。努めて視界から締め出してたんだが、チラチラと見た限りでは、え、そう訳すん?みたいな。いや、訳の正誤は云々しないにしても、日本語として微妙におかしい。そして何より、固有名詞の表記。「原音に忠実な表記」なんだそうである。外国語の音写は、突き詰めて言えば好み(こだわり)の問題だが、フローラFloraがフォロォーラァだったりフロォラァだったり、アンニーナAnninaがアンニィーナァだったりアンイナァだったり(字幕担当者による解説書では、さらにアnイナaが加わる)するのは、一体どういうこだわりなのでありましょうか。そういうわけで、つい字幕に気を取られてしまい、いまいち舞台に集中しきれなかったのでした。あーあ。

 外国語の音写について私自身は、所詮カタカナ表記で「原音に忠実」も何もあるかい、という考えである。あまりにも掛け離れているのは問題外として、後は好みと簡便さの兼ね合いだろう。それに同じ綴りでも、言語によって発音が違う場合も多いしね。

 ある事象が言葉で語られることによってその相を変えてしまう、同様に異なる名前で呼ばれることによって異なる相を与えられる、というのは私が関心を持っているテーマの一つだが、それに先立って人名そのものへの関心があるのは確かだ。要するに、同じ名前が言語や文化によって変わる、例えばヨハネがジョンだったりフアンだったりヤンだったりハンスだったりイワンだったりアイヴァンだったりするのがおもしろい、それだけである。

 出発点がそれなんで、語学自体にも興味はあるがマニアというほどではない。才能もないし。『グアルディア』で使われるスペイン語やイタリア語、フランス語等が現代のものなのは、「便宜上」です。27世紀、それも文明崩壊後の世界だったら、言語は相当に変化を被っているはずだけど、幸か不幸かそこまで設定するほどの言語マニアではありません。「簡便さ」との兼ね合いもありますし。22世紀末までは20世紀以前の文化が保存されているということになっているので、23世紀半ばの『ラ・イストリア』では言語は21世紀初めのこの世界で使われているものと、あまり変わらないでしょう。

 『グアルディア』と『ラ・イストリア』に引用した歌詞は、自力で訳したものである。引用部分だけでなく、一曲分すべて(『ラ・トラヴィアータ』は全幕分)訳している。歌詞カード等、既存の訳詩を参照したので、それほどひどい間違いはしていない、と思う。ただしピアソラの『南へ帰る VUELVO AL SUR』だけは原詩が入手できなかったので、CDから根性で聴き取った歌詞を訳しています。『ラ・トラヴィアータ』が擬古文というか似非古文調になっているのは、執筆当時、現代スペイン語(ほか)は「古語」という扱いにするつもりだったからです。19世紀のイタリア語だから、ということでコテコテの似非古文にしたわけだが、ピアソラのタンゴも当初は、より口語に近い古文調にしていた。佐藤先生が、「読者はそんなところまで気に留めない」と言わはったのでやめました。そのとおりですね、やりすぎでした。

 時代ごとの変遷とか考え出したらきりがないんで、現代語を古語とする設定はやめました。というわけで、25世紀初めの『ミカイールの階梯』で現代ロシア語と現代ペルシア語が使われているのも、「便宜上」です。

 今回もロシア語を0から始めたわけですが、ロシア語はカタカナ表記が難しい。発音自体はそれほど難しくないんだけど、カタカナで表せない音ばかりだ。しかも教材のテキストには発音がルビで書かれてたりするんだが、CDで実際の発音を聞いてみると、明らかにルビとは違う。というわけで、ロシア語のカタカナ表記は、慣用+簡便さ+私の好み、で行きます。要するに、セルゲイをスィルギェイと書いたりしない、ということです。よくロシアの人名はややこしいと言われるけど、あれは姓と父称が面倒なだけであって、個人名はそうでもないと思う。

 一方、ペルシア語(これは学生時代に少しだけ勉強したことがあるので、「0」からではないです。えーと、「1」くらいからかな……)はスペイン語ほどではないけれど、かなり日本語に近い音なのでカタカナ表記は楽です。母音はほぼアイウエオだし、子音もカタカナ表記が困難な音は少ない。ただ、長母音が多いのが多少煩雑と言えば煩雑です。でもこれも教材CDを聞く限りでは、長母音と短母音の区別はかなり曖昧なので、適宜省略しています。例えばペルシア語表記に忠実に音写すると「ミールザー」となる人名は、「ミルザ」とするといった具合に。

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