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ジェシー・ジェームズの暗殺

 ちょっと久しぶりの鑑賞記ですが、どうもこれまでだけでも記事数が随分多くなってしまったので(ざっと数えたら50ほどあった)、カテゴリーを追加することにしました。映画も本も展覧会もコンサートも全部一つのカテゴリーに放り込むからこういうことになるのですが、だって細かく分類するのがめんどくさかったんだもん。一つの作品について原作と映画等の両方の感想書くこともあるし。鑑賞してもわざわざ感想を書くほどじゃない作品やイベントもあるから、大した数にはならないだろうとも予想してたんですがね。つまりそれだけ去年一年、感想を書くに足るものに出会えたということなのでしょう。今年もそうだといいな。

 原題は「卑怯者ロバート・フォードによるジェシー・ジェームズの暗殺」。過不足なくそのとおりの作品である。というわけでネタバレも何もないんだが、まさかこれを観て「ストーリーが予想できてしまい、つまらなかった」などと言う観客はいまい。映画に限らず、ストーリー(筋書き)は作品の一部でしかなく、より重要なのは「いかに語るか」である。映画で言えば演出、映像、音楽、役者の演技や容姿……情報量は筋書きそのものより途轍もなく多い。レンタルビデオ店などで「ああ、それオチを知ってるから観なくていい」という発言を時々耳にするが、確かにそういう人は映画など観るだけ無駄だろう。もちろんストーリーが重要ではないと言うつもりは毛頭ないが。

 ケイシー・アフレックが非常に良い。ジェシー・ジェームズを崇拝する若造ロバート・フォードの役である。憧れの対象を勝手に神格化し、実像がその期待にそぐわないと簡単に憎悪に転じる過程だけでなく、ロバート・フォードの人物造形そのものも実に巧みに演じている。単に年若いというだけでなく、末っ子で常に軽んじられてきた彼は、卑屈さと異常に高い自尊心と自己顕示欲とが同居し、頭が悪いくせに妙に計算高い。見ているほうはイライラしてきて、邪険に追い払うか、笑いものにして散々いたぶるかどちらかの行動に出てしまいかねない。まだ若いのにものすごく演技力があるなあと驚嘆してたら、ええっ、75年生まれ? 童顔な上に、「若造の演技」も巧いんだなあ。ベン・アフレックの弟だということだが、似てるのは口から下だけだな。ていうか私は兄貴のほうの個体識別ができない。こないだ『スモーキン・エース』を観た時も妹に指摘されるまで気が付かず、指摘されてからも「こんな顔だったっけ」と首を捻る有様でした(すごくしょぼいチョイ役だったしな)。

 冒頭でジェシーの兄フランクは初対面のロバートを速やかに追い払う。彼は堅実な人物で、強盗稼業が行き詰ってきたと判断するや足を洗い、その後も堅実な人生を送る。ロバートがいると苛立たされ、調子を狂わされることを早々に察し、そうなることを厭ったのだろう。対照的にジェシーはロバートを傍に置きたがり、彼の崇拝を享受すると同時にチクチクといたぶる嗜虐性を見せる。世間が作り上げた英雄「ジェシー・ジェームズ」の肥大化していく虚構と、落ちぶれつつある現実の自分とのギャップを埋めるためにロバートの憧憬を必要とする一方、その彼が「本当のジェシー」を受け入れようとしないことに怒りを募らせる。身勝手さではいい勝負だ。

 ブラッド・ピットは久々にカリスマ性のある演技だった。『テルマ&ルイーズ』(91年)や『トゥルー・ロマンス』(93年)ではチョイ役にもかかわらず非常に印象的で存在感があったのが(『トゥルー・ロマンス』なんて寝そべってTVを観てるだけ、総出演時間はせいぜい5分である)、その後は演技が大味だったり、悪くはないけど別にブラピじゃなくてもいい役が続いていた。似合う役が、実は意外に少ない役者なんだろうと思う。最大の理由は、やっぱり顔だろうな。整った顔立ちだが、眉がやや下がり気味ですぐにハの字になる。金髪だからあまり目立たないが、今回のように黒く染めると非常に目に付く。ハの字眉と厚くて柔らかそうな下唇(アンジェリーナ・ジョリーの唇も厚いが、やたら弾力がありそうだ)が相俟って柔弱な印象がある。しかしエラの張った輪郭と濃い髭(金髪なのに髭の剃り跡が青々としている)は、むしろ粗野な印象だ。だから繊細とマッチョのどちらの役も似合わない。両方を備えた役が一番相応しいんだろうが、なまじスターになっただけに、そういう役があまり回ってこなかったんだろうな。

 そういうわけで、カリスマはあるんだがいまいち大物になりきれない無法者ジェシー・ジェームズという役は、素晴らしくブラッド・ピットに似合っている。荒涼とした大平原にぽつんと佇んでいたり、揺るやかな丘を馬で下ってくるのをロングショットで捉えた画が多かったんだが、改めてスタイルと姿勢のよさに感心する。だからロングショットや後姿のシルエットは非常にかっこいいんだが、顔を見るとハの字眉である。それもまた、虚像と現実とのギャップが大きいジェシー・ジェームズという人物に相応しく思えるんだけど、どうでしょうか。

 映像が美しく、素晴らしかった。灰色がかった色調で映し出される荒涼とした自然、侘しい町や農場といった風景。歪んだガラス越しの映像が印象的だ。華々しい英雄譚としょぼい現実のギャップは全編にわたって演出されていて、登場人物がジェシー・ジェームズも含めて全員頭が悪そうなのもその一環だろう。単に無教養なだけでなく、どんな行動をすればどんな結果になるか想像できるだけの頭もない。犯罪も綿密な計画や知略を必要としない行き当たりばったりなものばかりだ。そういう連中の一人、ロバートの兄チャーリーを演じていたのがサム・ロックウェル。『キャメロット・ガーデンの少女』と『グリーン・マイル』しか観たことなかったんだが、やっぱり『キャメロット・ガーデン』の美青年役は最大瞬間風速だったんだなあ。

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