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ラスト、コーション

 ネタバレ注意。身体を使って敵を陥れる任務の女スパイが標的を愛してしまう、という筋だけだと『ブラックブック』みたいなんだが、あっちのナチス将校が実は善人だったので心から愛し合えるようになるのに対し、こっちの特務機関幹部はあくまで任務に忠実で最後まで「敵」のままである。

 主演女優にすべてが掛かっている作品だ。違う女優が演じていたら、違う作品になっていただろう。タン・ウェイは二十代後半だが、ずいぶん童顔だな。美人じゃないとは言わんが「妖艶な美女」でないことは確かで、有閑夫人よりも学生の姿のほうがしっくりくる。しかしこの「なんとなくの似合ってなさ」が重要なのである。

 日本占領下の上海でタン・ウェイをはじめとする学生たちは、既存の抗日組織と接触することなく独自に活動を始めるのだが、熱意はあっても考えなしなのでいきなり大物を狙う。危なっかしいことこの上ない。それを一部始終監視していて、適度に痛い目を見たところで初めて手を差し伸べ、後始末をしてやって恩を着せる組織は結構世知辛い。タン・ウェイが抗日運動に足を踏み入れるきっかけは、男子学生への淡い恋慕である。この男子学生がまた絵に描いたような「熱意だけある使えないインテリ」なんだ。演じるワン・リーホンは人気アイドルだそうだが、この役ってどう見てもヘタレだよな。七三の髪型が似合いすぎる。インタビューによると1930年代の衣装を着たら「祖父にそっくりになった」そうだが、要するに古臭い顔してるんだろう。こういう男に憧れを抱いてしまうのも、それだけで引き返せないところまで行ってしまうのも、いかにも学生らしい。

 結局、タン・ウェイは演技の才能があり、かつ「敵を誘惑し陥れる役」にのめり込むのだが、どこか素人臭さが抜け切らない。彼女がスパイであることに、標的の特務機関幹部(トニー・レオン)がどこまで気づいていたかはともかく、この詰めの甘さに惹かれたのは確かだろう。彼女は任務に徹することはできなかったのだが、実際に戦時下ではよく訓練された工作員よりも、こういう素人同然の若者が多かったんだろうと思う。

 有閑夫人に扮したタン・ウェイの衣装が素晴らしい。いわゆるチャイナドレスが現在のデザインになったのは、この時代である。こればっかりは「妖艶な美女」が着てくれればもっとよかったんだけどね。体型には合ってるけどさ。童顔だから小柄に見えるけど170cm台だそうな。道理でトニー・レオンが小さく見えるはずだ。

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