« ウルビーノのヴィーナス展 | トップページ | 王妃の紋章 »

モンゴル

 欧米人にとって、こういうチンギス・ハーン像って斬新なんだろうか。こういうってどういうのかというと、つまり苦労して苦労して苦労して、負けてばっかりで、でも家族や仲間は大切にする青年テムジンだ。まあ少なくともロシア人には斬新だろうな。少年時代のテムジンが非常に逞しい。殺された父親の部下だった男に奴隷にされても殺されかけても、歯を食いしばってひたすら耐える。可哀想なんだが痛々しさはない。なんというか、この子なら耐えられそうだという気がしてくる。モンゴル人の子役がまた、「そういう役」を演じてるというより、彼自身もほんとに耐えられそうに見えるのだ。

 浅野忠信は周りの俳優たちに比べると線が細く見えるが、それでも余計な繊細さなんぞは出さず、むしろ愚直に演じることでテムジンの「大器」振りを表現している。テムジンの盟友ジャムカを演じたのは中国人俳優スン・ホンレイで、いかにも英雄の最初の好敵手に相応しい、豪胆なんだが欠点もある族長を好演。『初恋のきた道』の息子役か。あんまり憶えてないが、全然印象が違うな。若きテムジンがひたすら苦労する話だから、アクションやスペクタクルは期待したより少なかったが、少ないなりにしっかり作られて迫力がある。私はとにかく草原や荒野を駆ける騎馬が見られて満足でした。衣装や小道具もよくできていて見ごたえがあった。荒々しいというよりは猛々しく、しかも美しい自然の映像もすばらしい。ただし情緒的な場面だけは平凡。音楽は本編中は大変よかったんだが、クレジットで流れたのがモンゴルのホーミーのリミックスという代物で、何かこのセンスがすごくロシアっぽいような気がしたんだけど……いや、音楽担当は北欧人だけど。

 中盤、テムジンは西夏で虜囚となる。映画で西夏っていうと、角川映画の『敦煌』以来だなあ。あれは高校生の頃、TVで観たきりだからよく憶えてないが。全編日本語だったわけだが、「西夏文字」だけは序盤のキーとなるからきちんと再現されていて、台詞もほんの一部だけだが「再現された西夏語」を使ってたんだよな。大学の東洋史の先生がそれに言及して、「もっとも正しい発音かどうかなんて誰にも判りませんが」と身も蓋もないことを言っておられた。ということを『モンゴル』を観ている時に思い出していれば、西夏文字が登場するかどうか注意できたんだろうけど、生憎思い出さなかったので見落としてしまった。衣装や髪型は確かに西夏のものだったが(堕落した都らしく、高級官僚は薄化粧している)、言語は中国語(普通話)だったねえ。まあ都市には漢族も多かっただろうけど。

 浅野忠信がチンギス・ハーン役にキャスティングされたのを知ったのが数年前で、それからアカデミー賞ノミネートまで、まったく話題になってなかったよな。いかにもノミネートされてから急遽公開が決まった感じで、公開期間も一ヶ月足らずだし、パンフレットも碌な情報が載ってなかった。ノミネートされなかったら公開も危うかったんじゃないか?

|

« ウルビーノのヴィーナス展 | トップページ | 王妃の紋章 »

鑑賞記2008」カテゴリの記事