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お蔵出し3

鴉の右目の物語 3

 人々は噂した――やはり血は争えない。母親に続いて、娘も流れ者を咥え込んだか。

  だがそれも、最初だけのことだった。

  隻眼の青年は邪険にされても嫌な顔ひとつせず、進んで村人たちの仕事を手伝った。何をやらせても器用にこなす。そのうえ彼と一緒にいると、みな気持ちが不思議と明るくなり、仕事もはかどるのだった。

  村人たちは彼を重宝がり、次第に損得勘定抜きで好くようになった。そしてその好意は彼の連れ合い――もはや娘ではなくなった薬師の女にも寄せられた。女は周囲の変化に戸惑い、疑いの目を向けた。だが黒髪の青年は、彼女のわだかまりをも溶かしていった。

  夫婦仲が非常に良いことは、やがて村中が知るところとなった。だが彼らは誰一人として知らない。妻が小さな布の袋を胸に下げ、閨の中でさえ決して外さないことを。

  その年の冬至祭は、例年になく盛大だった。畑の実りは豊かで、家畜はどれも肥え太り、病気ひとつしない。誰とはなしに、青年のお陰だと噂された。近隣の村々からも客が訪れ、酒と食べ物が振る舞われた。楽の音と舞踏は一日中続いた。皆が笑い、満ち足りた気分に浸った。

  祭りの間、薬師の女と連れ合いは常に人々の中心にいた。引き留める人々を振り切って彼らが帰途に着いたのは、既に夜半を回ってのことだった。

 広場から村外れの茅屋に至る道のりを、女は青年にもたれ、くすくす笑いながら歩いた。戸口の前で彼女は立ち止まり、空を仰いだ。凍てついた藍色の夜空に蒼白い弦月が懸かっている。青年は、背後から腕を回して女を抱き締めた。

「こんなふうに、誰かと月を眺める日が来るなんて、思いもしなかった……」白く息を吐きながら、彼女は呟いた。涙が一筋頬を伝い、たちまち冷えきっていく。「信じられないくらい幸せだ。全部あんたのお陰だね。みんなが優しくなったのも……。いつまでも、あんたとこうしていたい……」

  青年の唇からも、同じように白い呼気が夜空に立ち上っている。女を抱く腕に力を込め、彼は囁き返した。「いられるさ。俺はあんたのそばにずっといる。決してどこかに行ったりしない……」

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