アンブレイカブル
確か2002年にビデオ鑑賞。ネタばれ注意。
一人のアメコミ・ヒーローの誕生を、まったくアメコミ・ヒーロー的でない手法で描いた傑作。主人公はブルース・ウィリスだし、タイトルのUnbreakable(壊れない)はDie Hard(死ににくい)を髣髴とさせるし、家族との間に溝はできてるし、そこへふざけたヅラをかぶったサミュエル・L・ジャクソンが登場して厳粛にオタク談義をするし、映像と演出はこれがまた極めて厳粛で格調高い。
ジャクソンの役名はイライジャすなわち預言者エリヤである。単に運がいいとか勘がいい、で済まされる程度の主人公のささやかな「差異」を「超能力」であるとし、あらゆるものに徴を見出す彼は、あたかも救世主を導く預言者であるかのようだ。そしてその実、イライジャが「徴」とした出来事の一部は彼自身の作為なのである。
霊能者を自称する人々の少なくとも一部は、自分が本当に力を持つと信じているという。なぜなら身近な人物が密かに「奇跡」を作り出し(多くは善意から)、自称霊能者は無邪気にもそれを信じてしまうからだ。
『アンブレイカブル』は、ヒーローを救世主と言い換えさえすれば、「人為的に造り出された救世主。彼は果たして本物(キリストの再来)か偽物(反キリスト)か?」という極めて宗教的な作品になっただろう。仮に「(現代に)救世主を造り出す」という話だったとしたら、やはりイライジャに当たる人物はキリストや数多の聖者たちの伝承を参考に「救世主ならこう在るべき」というマニュアルを作って、主人公がそれをなぞることを求めるだろう(で、最後には自ら主人公を誘惑する悪魔の役を演じ、主人公がそれを跳ね除ける、といったオチにでもなるか)。
でも、あくまでも救世主じゃなくてアメコミのヒーローなんだよね。いや、まったく素晴らしい。
そういった、いわば極めて厳粛に荘重に延々とネタ繰りを続けているのとはまた別に、映像は美しい。映像というより、光の使い方か。薄闇の中、微かな光を反射する水の表現が特に美しい。
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