生体甲冑 Ⅰ
『グアルディア』と『ラ・イストリア』に登場。スペイン語では「アルマドゥラ」armadura。これだけだと実際には、単に「甲冑」って意味なんだけど(英語だとarmor)、それはともかく。
「擬似ウイルス型の生体兵器」。感染によって宿主(人間限定)の身体能力を、飛躍的に増強する。感染者は中世ヨーロッパの甲冑のような姿に変身するので、「生体甲冑」の名がある。また、感染者は「着用者」と呼ばれる。変身した着用者を、生体甲冑と呼ぶこともある。
感染: この兵器の本来の形態は、RNA断片と蛋白質外被という、ウイルスによく似たものである。しかし最小のウイルスよりもさらに小さく、そのRNAはバラバラの断片状であって情報(遺伝子)を一切持たない。また、自己複製をしない。宿主の細胞に取り付くと、RNAのみを注入し、外被は捨てる。ここまでは通常のウイルスと同じ。しかし注入されるRNAが一定量に達するまで、感染は完了しない。入り込んだRNAは、宿主のDNA配列をコピーし、宿主の増殖機能を使ってそっくり同じ細胞を作り出す。
変身: コピー細胞(生体甲冑細胞)は元の宿主細胞と一見区別がつかないが、生化学反応が非常に高く、その結果、あらゆる機能が向上している。高速で増殖し、宿主細胞と置き換わっていく。全身に占める生体甲冑細胞の割合が一定に達すると、置換されていない元の細胞も生体甲冑細胞と同じ能力を示すようになる。すなわち、生体甲冑は人間の細胞を活性化させ、「本来の能力」を引き出す働きをするのだと解釈される。
生体甲冑細胞への置換がさらに進むと、変身が可能になる。必要な時間は感染から約24時間とされるが、個人差がある。変身は血中のアドレナリンの上昇で喚起され、着用者が戦意を喪失すると解除される。
変身時は、攻撃力・防御力のみならず治癒力も増大する。着用者個々人の性格とは無関係に攻撃性も高くなり、また攻撃に対しては自動的に反撃する。着用者の意志でこれを抑えるのは困難である。
着用者の遺伝子に欠陥があったり、または正常な発現をしていなかった場合、生体甲冑によって修復される。そのため、着用者の姿形が変化することもある。
侵蝕: 細胞の置換が進むにつれて、兵器としての性能が向上する。変身がより速やかになり、また自らの意志で変身、解除が可能になる(逆に言えば、置換が進んでいない段階では、意のままに変身できない)。変身時の能力もより向上し、肉体による直接攻撃だけでなく、衝撃波による遠隔攻撃も(自らの意志で)可能になる。
一方、攻撃の制御はますます困難になり、しばしば「暴走」と呼ばれる状態に陥るようになる。恐怖、不安などの負の感情、戦闘に対するストレスが薄れ、思考パターンも着用者本来のものから掛け離れていく。ただし、暴走中は攻撃に対して自動反撃するのみで、自ら攻撃を掛けることはない。その限りでは、暴走前より危険は少ないとも言える。
さらには、通常時(変身していない状態)にも変化が現れる。恐怖、不安の低下は継続するが、攻撃性は感染以前より却って低下、変身時の記憶の想起に情動が伴わない、自己と周囲に対して関心が低下する、など(『ラ・イストリア』より)。
この状態を「侵蝕」と呼ぶ。置換が進んだことによってもたらさられる状態を侵蝕と呼ぶのであって、どの段階からを侵蝕と呼ぶ、というような厳密な区分はない。侵蝕が進むと、ついには変身が解除できなくなり、永続的な暴走状態となる。攻撃してくる相手には徹底的に反撃し、完全破壊するまで止まらない。この段階が「侵蝕体」であり、着用者の人格も崩壊していると推測される。侵蝕が食い止められた例はない。
侵蝕(置換)が進む条件は、感染からの時間および変身時間の長さ、肉体を損傷した度合い(通常時、変身時を問わない)に比例する。特に、変身時間が長いほど、変身時に肉体を損傷するほど進行する。
23世紀前半には、着用者に強力な毒素や病原体を摂取させ、免疫機構を高めるとともに置換を促進する「強化」が行われていた。『グアルディア』第八章では週に二回の頻度だったが、これが23世紀前半当時と同じだったのかは不明。
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