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生体甲冑 Ⅱ

「生体甲冑 Ⅰ」の続き。

完全侵蝕体: 2540年、生体端末アンジェリカⅢが提唱した仮説的存在。すべての細胞が生体甲冑細胞に置き換わった着用者。JDがこれに該当する。限りなく不死身に近く、エネルギー補給は必要だが、不足すれば休眠状態に入ると推測される。ただし、元の擬似ウイルス形態および感染組織片での休眠(結晶化)は23世紀前半までには確認されているが、着用者の休眠は2643年の時点でも状況証拠しかない。

甲殻型と軟体型: 生体甲冑(変身した着用者)の行動原理は自己保存であり、それが「甲冑を纏ったような姿」にも表れている。その外見は金属的な光沢を持つ黒色の外殻(装甲)、体長2メートル強、四肢は長く、丸い頭部には目、耳、鼻などの感覚器官がなく、鋭い牙の並ぶ口は攻撃と摂食にのみ用いられる。呼吸は首と腰付近にある吸排気孔で行われ、衝撃波や音声もここから発する。感覚器は装甲の継ぎ目に集中し、特定の感覚に特化された器官ではなく、外部のあらゆる刺激を受容しているらしい。装甲はあらゆる攻撃に対し、非常に耐性が高い。そのほか、巨大な鉤爪、棘状の突起などの特徴があり、「巨大な昆虫か甲殻類」のように見える。
 2230年代、装甲を取り払ったタイプが開発された。これは「軟体型」と名付けられ、以後、装甲を持つ初期型を「甲殻型」と呼ぶ。
 体長やプロポーション、牙や鉤爪、吸排気孔などは甲殻型と変わらないが、装甲を失った表皮は、赤黒いケロイド状で、非常に無惨な印象がある。罅割れたゴムや樹皮のようにも見える。厚くて弾力があり、銃弾程度は跳ね返すが、甲殻型の装甲に比べれば遥かに脆弱である。また、感覚器も剥き出しで全身に分布するため、苦痛により鋭敏である。
 軟体型の開発目的は、凶暴性をより高めることであり、確かに目的どおり、より暴走しやすく、より大規模な破壊をもたらした。
 軟体型も甲殻型も、それぞれ個体差はないが、よく見れば微妙な違いはあるかもしれない。
 完全侵蝕体とされるJDは、通常時でも自らの遺伝子の発現を自在に操って外見を変えることができる。変身時も、目的(飛行など)に合わせて形態を変えることが可能。また、感染間もない(したがって能力が低い)着用者でも、二足歩行から四足歩行に切り替えた例があり(『グアルディア』第7章)、その際には骨格等、相応に変化していると思われる。

歴史: 1997年、遺伝子改造(組替)用の無害なレトロウイルスを開発中、偶然生み出されるが、当時は、宿主の細胞をコピーするだけの無用の長物だと見做され、そのまま埋もれる。2180年代に偶然、日の目を見、その驚異的な機能が明らかになる。兵士の戦闘力を増強する目的で実験が行われ、その過程でさらに変身能力が明らかになる。
 その力の解明は進まず、また暴走も制御できないまま、禁制兵器として封印された。しかし間もなく大災厄が始まり、なし崩し的に実戦に使用されようになる。研究された期間が短く、実際に使用された例も少ないため、データは非常に少ない。

 当初、着用者となったのは亜人(遺伝子改造によって生み出された奴隷種)のみだったが、秩序の崩壊とともに人間も着用者となる。
 実験も含め、着用者は一例残らず暴走し、大規模な破壊をもたらしている。彼らの末路についても、データは沈黙している。ただし2643年の時点では、唯一の「消滅」例として、2250年代のアジアでの核攻撃によるものが確認されている。なお、これは『ラ・イストリア』(2256年)より後のことである。

「生体甲冑 Ⅰ」 

関連記事: 「大災厄」 「ホアキン」 「亜人」

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以下、ネタばれ注意。

 これまでに三人の着用者が登場している。JD、ホアキン(『グアルディア』)、フアニート(『ラ・イストリア』)である。このうちJDは(まず間違いなく)完全侵蝕体であり、着用者になって日の浅いホアキンやフアニートとは異なる能力を示す。

 特殊な存在として、JDの「娘」カルラがいる。『グアルディア』第九章の回想に於いて、彼女の身に起きた現象は、生体甲冑の「初期化」と「二次感染」である。どちらも、22世紀末から23世紀前半にかけて行われた研究や報告に於いては、決してあり得ないとされていた。また、彼女の能力は、JDや他の着用者たちとは異なるようである。

 全身が生体甲冑細胞だけから構成されているJDやカルラは、人間であった時の彼らと同一人物と言えるのだろうか。
JDは、己の内部に「かれ」と呼ぶ、自己とは別個の存在を認識している。「かれ」とは生体甲冑であるらしい。冷徹な状況判断と、敵に対する激烈な怒りのみを有し、人格といえるほど複雑な存在ではない。ホアキンも変身中に普段の自分からは掛け離れた冷静さや怒りを認識しているが、それが「かれ」と呼べるほど自己から切り離された存在であるとは捉えていない。

第一次南北アメリカ戦争: 2180年代に開発が始まった生体甲冑だが、間も無くその危険性から禁制兵器とされ、使用や所持だけでなく研究も禁じられた。しかし2202年、テキサスとメキシコの間で起きた戦争で、テキサスの司令官が生体甲冑を使用。暴走したその一体は敵味方を問わず甚大な被害を与え、体制の崩壊を早める一因となった。
 この戦争は後に「第一次南北アメリカ戦争」と呼ばれる。また、この時の生体甲冑(の着用者)は、幾つかの状況証拠からJDであったと推測される。現段階では、あくまで推測だが。
 戦争が一応終結した後、メキシコ政府は生体甲冑を不法入手し、研究開発を行った。研究は数年後に頓挫したが、閉鎖された研究所から持ち出された擬似ウイルスによって、フアニートは着用者となる(2256年、『ラ・イストリア』)。

第二次南北アメリカ戦争: 2202年以来、北米の南部諸州とメキシコの間では緊張が続いていたが、2257年、再び開戦に雪崩れ込む。この南北アメリカ戦争(第二次)はその後延々と24世紀前半まで続き、国境地帯は死の沙漠と化す(『グアルディア』)。
 しかし、開戦のきっかけを作ったのって、実はフアニートなんだよね。原因ではないにしてもさ。

 グアルディア伝説を語り継いだのは、フアニートに救われたアロンソや北米白人たちだろう。しかし彼らが築いた村が少なくとも2450年の時点までは閉鎖的な状態を持続していたのに対し、伝説が非常に広範囲にわたって広まっている(南米大陸の南半球側まで)ことから、1、村を出る住民が少なからずおり、彼らが伝説を広めた。2、フアニートと似た事例が複数あった――の二つが考えられる。たぶん両方でしょう。

『ラ・イストリア』のフアニートと『グアルディア』のホアキンは、少年ヒーローへのオマージュである。それも、「戦いによって心を蝕まれていく少年ヒーロー」だ。体力を別にすれば、子供というのは兵士として非常に「便利」なんだよね。しかし子供を動員するような戦争がどういうものかってのは、もはや言うまでもない。そんなものにヒロイズムを見出すのは、そろそろやめようよ。
「子供を必要とするようでは、レコンキスタ軍はお終いだ」(『グアルディア』第七章より)。

「生体甲冑 Ⅰ」 「生体甲冑 Ⅲ」 

関連記事: 「カルラ」 「JD」 「異形の守護者」 

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参考記事: 「脳内ガンダム」 「実は変身ヒーローじゃなかったりする」 

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