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静物画の秘密展

 ウィーン美術史美術館所蔵品から、国立新美術館開催。

 二つの理由から、展覧会は空いているに越したことはない。まず、単純に物理的事実として、混雑していると鑑賞が困難である。第二の理由だが、世の中には周囲の人の話す内容が耳に入ってくる人と入ってこない人がいるらしいが、私は明らかに前者である。聞き耳など立てていないのに、注意が向いてしまうのだ(そうならないのは、読書中くらいなものである)。
 で、作品鑑賞中に「すごいわねえ、写真みたい」とか「これくらい、わたし(もしくは、うちの子)だって描けそうね」といった言葉が耳に入ってくると、まるで自分が性格の悪い人間になったような気がしてきて、精神衛生上あまりよろしくない。

 しかし今回はそういった善良な人々だけではなく、たいそう躾の悪いお子さん方の「美術鑑賞」の授業とかち合ってしまったのであった。とりあえず、与えられた時間のギリギリまで会場のベンチや休憩室を占拠し、後はひたすら出口に向かって突進するのを「授業」と呼べるとしたらだがな。しかもそれだけならまだ害は少ないが、時々作品に目を留めては、破壊力甚大な発言をかましてゲラゲラ笑いながら去っていく。引率者の姿が見当たらなかったが、いても大して変わらなかったかもな、あれじゃ。
 これまで展覧会で遭遇したお子さん方(児童・生徒・学生)の団体は概ね、行儀がよくて鑑賞態度も熱心だったから、今回のんが例外だったんだろうけど。

 肝心の展覧会だが、期待外れだった。「静物画の秘密」などと物々しいタイトルだから、どんだけアカデミックもしくは『ダ・ヴィンチ・コード』並みに無茶なイコノロジーを展開してくれるかと思ったら、寓意についてはほんのわずかしか触れておらず、しかも純粋に静物画と言える作品はたぶん半分くらい。
 まあつまり、この展覧会の本来の趣旨は、バロック絵画を並べて、「(静物画以外でも)背景の植物や動物、小道具に注意を向けてみましょう」というものであるらしい。何が「静物画の秘密」だよ。

 そういう見落としがちな要素への注意を喚起させよう、という試み自体は結構なことだと思うけどね。「静物画」と銘打つなんなら、もっと名品を持ってきてくれ。
 バロック期の静物画は凄いのになると、それこそ「写真みたい」なわけで、画家の執拗な情熱を思うと、ぞくぞくするほど嬉しくなるのだが、生憎今回はそのような作品にはほとんど出会えなかった。
「静物画」って銘打ってんのに(何度でも言うぞ)、展示された静物画は無名画家の作品ばっかりだしな。作者不詳や工房制作品が大半だ。ハプスブルク家のコレクションなのになあ。当時、フランス以外の国でも静物画の地位が低かったのか知らないし、無名画家の作品でも素晴らしいものはあるにはある。でも今回のんは……

 そう思ったのは私だけではなく、耳に入ってくる周囲の声も「写真みたい」「本物みたい」という意見は数えるほどしかなく(いや、数えてなんかいないけどさ)、「(果物を見て)あんまり美味しそうじゃないわねえ」とか「あの葡萄、色が変」といった具合でしたよ。

 今回、リューベンスが展示されていたが(「チモーネとイフィジェニア」)、さすがリューベンスだけあって、背景の果物やら動物やらは別人に描かせている……いや、そういう制作法がどうこうってんじゃないが、「静物」がメインの展覧会にそういう作品を持ってくるのはどうよ。

 佐藤先生が明治大学の講義で、ルーベンスを評して「寓意がすでに無効になっている時代に、寓意を多用している」と言わはったことがある。私はイコノロジーを体系的に捉えたことがなかったんだが、改めて考えみると、マニエリスム以前の寓意が解説なしではさっぱり解らない(そして大概、解説がない)のに対し、バロックの寓意は単純だよな。つまり、形骸化しているってことだ。

 とまあ、珍しく不満の多い展覧会だったが、それを確認できただけでも良しとしておくか(よかった探し)。ヤン・ステーンも観れたし。
 あと、妙に気になったのがヨハン・ケーニヒという人(Johann Königで検索したが、該当者は出てこなかった)の四季の連作。春(庭園の宴)、夏(小麦の収穫)、秋(葡萄酒造り)、冬(蕪の皮むきと亜麻糸造り)の登場人物たちが、すべてプットー(童子)であるらしいのだ。で、この時代の絵画では、子供は頭の大きさ以外、プロポーションや顔の造作が大人と区別が付けにくい。男は筋肉隆々としてるし、女は尻や太腿がリュベンス張りにむっちりしているから、子供ではなく4頭身の大人かもしれないとも思ったが、注意して眺めると、女は乳房がない。だから、やっぱりプットーなのである。
 この時代の小児愛については知らんのでなんとも言えんが、少々グロテスクっていうか、どうにも妙な作品でした。

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