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メトセラ種

『グアルディア』に登場。不老長生の遺伝子群「メトセラ因子」を持つ遺伝子改造体。単に「メトセラ」とも呼ばれる。テロメラーゼの活性によるテロメアの伸張(細胞の不老化)、神経細胞および筋細胞の再生、高い免疫力と治癒力といった特徴を持ち、治癒不能の損壊を受けない限り、理論上は不老不死とされる。
 成長速度は常人と変わらないが、成熟後は老化せず、20代初めの外見、身体的機能を保つ。ただし、生殖機能だけは年齢とともに低下する。

 なお、このシリーズでは「因子」「遺伝子」「遺伝子群」などの用語の使い分けは、かなり曖昧である。これは、そもそも現実に「遺伝子」の定義が曖昧なため。曖昧といっても、塩基配列上のどこからどこまでを「一個の遺伝子」として数えるか、といったあくまで生物学的定義上のことで、一般に流布する比喩的・疑似科学的用法は断固として排除しますよ。
 同一染色体上にある連鎖遺伝子群のうち、相関する形質に関わるものを、便宜的に「因子」と呼ぶことにしている。メトセラ「種」という呼び方も便宜的なもの。

「絶対平和」の時代(21、22世紀)、遺伝子改造は遺伝子管理局によって厳重に管理されており、規定値以上の改造は一代限りとされた。「規定値以上の改造を受けたヒト体細胞由来のクローン」は、人間ではない奴隷種とされ、「亜人」と呼ばれた。
 それが大災厄によって規制が崩壊、無数の改造遺伝子の情報が流出し、遺伝子改造は野放しになった。人工子宮によるクローンの大量生産が不可能になったため、やがて遺伝子改造体の増産を望む者たちは改造形質を遺伝可能にして「繁殖」を行うようになる。
 メトセラ因子を持つ「ドメニコ一族」は、そのようにして造り出された遺伝子改造体の末裔である。ただし不老長生のメトセラ因子は、法で規定された亜人のために開発されたものではない。

 メトセラ因子は、Y染色体上で発見された変異を元に、21世紀初頭に開発された(ちなみにY染色体は、他の染色体に比べて変異の頻度が非常に高い)。
 つまり、メトセラは男性のみということになる。しかも場合によっては、メトセラ因子が発現しない(常人と変わらない形質の)子供が生まれてしまう。彼らはメトセラ因子保有者ではあるが、メトセラとは呼ばれない。
 因子が発現しないのは、卵子提供者のX染色体上に発現を阻害する因子(遺伝子)が存在するためと推測されている。ドメニコ一族のデータから、阻害因子を持つ女性の割合は二人に一人、或いはそれ以上とされる。

 アンヘルによれば、メトセラ因子を常人に組み込めば、寿命が延びるし老化も止まるが若返り効果はない(第一章)。ただし発言時の状況からすると、どこまで事実かは不明。科学技術庁に於いて、そのような実験が行われたのかも不明だが、行われたとしても不成功に終わったと思われる。
 なお、『ラ・イストリア』でクラウディオの父親たちが行った「若返り」技術は、メトセラ因子とは無関係である。なんらかの方法で細胞を活性化させるが、延命効果はない(テロメアの伸張はない)。遺伝子管理局の支配下では、若返りの「やりすぎ」は禁じられていた。

関連記事: 「遺伝子管理局」 「大災厄」 「亜人」 

 以下、ネタばれ注意。

 

 メトセラ因子は、知性機械の「中央処理装置の生体パーツ」のために開発され、その後は使用禁止とされてきた。上述のとおり、ドメニコ一族は大災厄の混乱に乗じて造り出された遺伝子改造体であり、「中央処理装置の生体パーツ」とは一切関わりがない。
 因子が存在するのはY染色体上なので、メトセラは男性のみとされているが、実は他の染色体に移植しても、(阻害因子と組み合わされない限り)発現する。

 以下、『グアルディア』で言及または登場のドメニコDomenico一族の一覧。

グイド: Guido。2490年、自治都市エスペランサの科学技術庁を訪れる。約半年後に死亡。
 2293年生まれのアルヘンティナArgentina(アルゼンチン)国民であることを示すIDカードを所有しており、声紋から本人のものであると確認された。声紋は年齢とともに変化するものであるが、成人後のメトセラは声紋も変化しない。
 アルゼンチンは19世紀以来、イタリア移民が多く、23世紀初頭のエウロパ(ヨーロッパ)大飢饉の際にも大量のイタリア難民が流れ込んだ。彼らは後に同国の支配階層となった。グイドはその第4~5世代に当たると思われる。
 彼は部分的な記憶喪失を主張していた。彼の脳に残る幾つ物損傷と再生の痕跡がそれを裏付けている。脳組織が再生しても、記憶までは再生しないようである。
 また、それらの傷跡とは別に、ロボトミーの痕跡と思われるものもあった。科学技術庁の研究員たちの中には、彼がその子孫たちより長く生きたのは手術の効果だと推測する者もいた。

クリストフォロ: Cristoforo。通称はクリスト。グイドの息子。2478年頃に生まれる。母親、出生地ともに不明。2638年死去。

 父親の死後、クリストフォロは科学技術庁に「実験体」として幽閉されることになる。彼の息子と孫息子たちもまた実験体として産み出された。彼らは人体実験の対象とされ、メトセラ因子が発現しなかった者は殺されるなど、非人間的な扱いを受けた。クリストフォロが生体端末たちとの関係を足掛かりに勢力を伸ばしていくにつれ、待遇は改善されていったが、彼は血を分けた息子たちよりも、養女にして愛人である生体端末たちを常に優先していた。

ラウル: Raul。クリストフォロの息子。2562年生まれ。ホアキンとは母親(卵子提供者)を同じくする。

ステファノ: Stefano。クリストフォロの息子。ホアキンのすぐ上の兄(60歳年長だが)。2567年生まれ。2638年、クリストフォロの手によって殺害される。

マルチェロ: Marcello。モニーク・マルタンの身の上話に登場。この身の上話自体、真偽不明だが(「語り手、および文体」を参照)、クリストフォロの孫にマルチェロというメトセラがいたこと、その出生(2496年)から失踪(2617年)までについて語られたことは「事実」だろう。モニークはアンヘルの秘書官であり、科学技術庁の極秘文書を参照することも可能な立場だった。失踪後はマルチェロはマルセロ・ドミンゴMarcelo Domingo(スペイン語形)と名乗っていたという。マルチェロのフランス語形はマルセルMarcel。

ジョアッキーノ: Gioacchino。通称ホアキンJoaquin。クリストフォロの末子。2627年生まれ。「ホアキン」の項に詳述。

 生体甲冑の着用者となったホアキンの細胞の置換は、常人よりも1.5~4倍も遅かった。メトセラの免疫力の強さが理由と考えられる。

 理論上は不死のメトセラだが、科学技術庁に於いて100歳を越えたメトセラの例はごくわずかである。しかも全員が自殺、不審死、失踪を遂げている。これが環境によるものか、遺伝によるものかは不明である。環境的要因は多分にある一方、遺伝的要因は特定されていない。また遺伝が関わっているとしても、メトセラ因子と(それとは無関係な)ドメニコ一族特有の形質のどちらに求められるかも不明である。

関連記事: 「知性機械」 「生体端末」 「生体甲冑」 

       「ホアキン」

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