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カロリーヌ・ティシエ

 Caroline Tissier。『ラ・イストリア』に登場。

 23世紀半ばの北米では、白人至上主義と原理主義とを掲げるネオピューリタンが、異人種と異文化に対する迫害を強めていた。メキシコには迫害を逃れて多くの有色人種が不法入国していたが、2256年、バハ・カリフォルニア(カリフォルニア半島)に白人のグループが不法入国する。カロリーヌはその代表者で、30代後半、金髪碧眼、白皙の小柄な女性。両親はヨーロッパからの難民でフランス系。カトリックを信奉する。

 カロリーヌたちは人種主義からすると紛れもない白人であり、ネオピューリタンに同化しさえすれば支配層の一員となれる。しかし彼らは同化を善しとせず、その一方で有色人種たちからは白人というだけで憎悪を向けられたため、メキシコに逃れる。東シエラ・マドレ山中にコミュニティを建設し、いずれは同じ思想的立場の北米白人たちを受け入れたいと望む。そんな彼らは、密入国仲介業者のアロンソの目には薄甘い理想主義者と映る。

 ネオピューリタンの同化政策で、非英語圏の白人は英語の使用や英語風の改名を強制されていたようだ。カロリーヌはそれに抵抗してフランス語名を名乗り続けていた。ただし「両親の死後はフランス語をほとんど使ったことがない」とのことで、フランス語よりも英語の使用に慣れており、仲間たちとも英語で会話する(しかし生体甲冑の力を目の当たりにし、驚愕に打たれて呟くのはフランス語である)。

 Carolineの英語形は、スペルは同じでキャロラインもしくはキャロリン。英語形の愛称はキャリーCarrieが一般的だが、仲間たちは彼女をカーラCarlaと呼ぶ。
 CarolineもCarlaもCarlの派生形、つまり同じ名である。カロリーヌたちのコミュニティは『グアルディア』のカルラCarlaの故郷、サン・ヘロニモ村の原型となっており、またアンヘルの祖クローンであるブランカが東シエラ・マドレへと赴く経緯にも多少の関わりを持つ。「グアルディア伝説」は、彼らから広まったのであろう。
 つまりカロリーヌは、カルラ、アンヘル、そして生体甲冑(というガジェット)を結び付ける役割を持ったキャラクターである。その象徴として、カルラに関連した名と容姿(金髪碧眼、白皙)を持ち、また生体甲冑をシリーズで初めて「守護者」と呼ぶ。

 ただしカロリーヌとカルラの繋がりは、上記のとおり、あくまで間接的なものである。このシリーズに於いて、血縁関係というものは共有遺伝子の有無を基本とし、いわゆる「血の絆」といった観念上の繋がりは、近親ならともかく、何世代も離れてしまえば意味を持たない。したがって、カルラがカロリーヌの子孫であるか否かという追究も無意味である。まあ、カロリーヌは一人くらいなら産めそうな年齢ではあるが。
 カロリーヌたちのコミュニティも、その後、集合離散を繰り返したであろうから(グアルディア伝説が広範囲に伝わっているのも、その裏付けと言える)、カロリーヌと同行した白人たちの誰一人としてカルラの祖先ではない可能性も、ないことはない。そのくらい、先祖‐子孫の関係は重要性が薄いということ。
 カルラとカロリーヌが同じ名なのは、物語上では単なる偶然である。ただ、村の始祖たちの一人としてCarlaの名が後代に伝わり、サン・ヘロニモ村の伝統的な名となった可能性はある。いずれにせよ、26世紀の時点でサン・ヘロニモ村の「始祖たち」が完全に忘れ去られていたのは確かだが。

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