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ブーリン家の姉妹

 ナタリー・ポートマンとスカーレット・ヨハンソンは、どっちもスタイルがあまり良くないから、こういうゴテっとした衣装のほうが似合うよな。

 夏以来、どうにも映画館まで映画を観に行く気力が沸かないのだが、先日、ヘンリー八世梅毒説を検証した本を読んだためか、なんとなく観に行って参りました。
 この『歴史を変えた病』という本、著者のフレデリック・フォックス・カートライトはイギリス人で日本語訳こそ96年刊行だけど、原著が出たのはその20年も前である。どうも当時のイギリスでは、ヘンリー八世梅毒説は否定される傾向にあったらしい(現在は知らん)。で、著者は「限りなく黒に近い灰色」として断定を避けた上で、6人の王妃たちの流産、死産、子供の早世の多さを挙げ、「彼が罹っていた病気(一つではなかった)がなんだったのかということより、健康な子供を儲けられなかったということが、その後の歴史に及ぼした影響は大きい」と結論している。

 ナタリー・ポートマンは、下手ではないと思うんだが、激情の表現がかなり単調だ。単純に叫んだり泣いたりするだけでもそうだから、表面的には平静だけどその下から押し殺した激情が透けて見える、なんてのは言わずもがな。つまり演技の幅が狭いんだよな。『V フォー・ヴェンデッタ』に比べれば、今回はまだましだったけど。

 ポートマンが演じたアン・ブーリンは、作中では男勝りで野心家の女として描かれる。頭がよくて美人だけど、他人の心理(特に男の)がよく解ってないので、「王にいいところを見せろ」という父親の言い付けに頑張って応えようとして、乗馬の技術で王を負かした上に怪我までさせてしまう。
 それじゃ駄目だ、ということを学んで、「女の手練手管」を身に着けるんだけど(頭はいいので、そういう技術もすぐ習得する)、結局表面的なものに過ぎず、根本的な部分は変わっていないので、せっかく勝ち取った王妃の座を維持できずに転落する。

 最初の失敗の後、王の関心を引くところまでと、王妃の座を手に入れた後の絵に描いたような転落振りはいいんだけどね。王妃との離婚まで漕ぎ着けさせたほど王を魅了し続けた、という点に説得力がない。そこまで魅力的に見えないのである。もっともこれはポートマン一人の問題じゃなくて、脚本や演出、エリック・バナの演技にも難があったのかもしらんけどさ。

 それにしても、『レオン』の奇跡的なまでの魅力は、ほんとにあれ限定だったんだなあ。12、3歳という年齢の極めて限定的な魅力に、リュック・ベッソンという極めて限定的な才能が出会ったからこそ最大限に引き出された、まさに奇跡的な魅力とゆーか。

 ヨハンソンは巧いとは思うんだが、なんかなんでもそつなくこなしちゃってる感じで、観ていてあまり興味が惹かれない。

 エリック・バナの出演作は『トロイ』と『ミュンヘン』と、後は印象に残っていない『ブラックホーク・ダウン』(あれは作品そのもののインパクトに比べて、どの俳優の印象も異様に薄いんだが)にあまりのひどさに最初の15分で挫折した『ハルク』しか観たことがない。
『トロイ』と『ミュンヘン』ではどっちも「真面目な苦労人」という役柄が嵌まっていたが、今回は絶対君主ヘンリー八世である。彼が登場する映画っていうと、『わが命つきるとも』しか観たことない。ロバート・ショウのヘンリー八世と比べたら、エリック・バナはどうしたって分が悪いよな。

 絶対君主や独裁者は、個人ではなく「気象現象」として描いたほうがいい、と思う。実際にそう見做されたか、というのは大して問題ではない。少なくとも、一個の人間と同じく気紛れだが、その影響力は一個の人間(普通の意味での)より遥かに甚大、という点では正しかろう。「現象」として余さず描けばいいのである。下手に「一個の人間として」描こうとすれば、ステレオタイプと同じくらい安っぽくなるだけだ。
 あの物凄い肩パッド入りの衣装をまともに着こなせる、という点に於いては、エリック・バナはミスキャストじゃなかったけどさ。

 キャサリン王妃役はアナ・トレントでした。『ミツバチのささやき』のアナ・トレントだよ。34年も経ってるんだけど、面影がちゃんと残ってる。特に目の辺り。作中でしばしば「善良な」と形容されるとおり近寄りがたさはないのに、気品に満ちた王妃を演じていた。2歳年下でしかないエリック・バナが完全に貫禄負けしてる。てゆうか、エリック・バナに重量感がなさすぎるのか。

 姉妹の母方の叔父役のデヴィッド・モリッシー。最初っから姪を王に差し出そうと目論んでたんだが、義兄が自分の意思で決定したと思い込ませるのである。酷薄そうな目が、ちょっとピーター・サースガードに似ている。

『ブラックスワン』感想

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