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アラトリステ

 きちんと作られた歴史映画でした。

 17世紀、フェリペ4世の治世のスペイン。主人公アラトリステはあくまで一兵卒(小規模な部隊の隊長くらいは務めるが。平時は剣客)に過ぎず、原作ではどうだか知らないが、少なくとも映画ではアラトリステは主体的、能動的に行動するキャラクターではなく、他者の思惑や時代の変化に翻弄されていくだけである。狂言回しですらない。
 無数の市井の人々の中の、偶々彼にスポットが当たって、彼が駒のように動かされるにつれて、周りの情景も浮かび上がっているような、そんなかたちで物語は進んでいく。実際、一兵卒、一剣客というのはそのようなものであろう。
 歴史ものの主人公というのは、傍観者的なキャラクターであっても、その時代の社会的な立ち位置を踏み外して、制作者の後知恵的な見解を代弁することが多いが、この作品では違う。ある意味、主役はこの時代のスペインであると言えるかもしれない。

 全体を通しても、なんというか視点が非常にニュートラルである。異端審問とか王の失政とかに対して、個々のキャラクターからの批判は出されるのだが、それはあくまでそのキャラクターの意見に過ぎない。まあスペインの所謂「黒い歴史」は、何世紀にもわたって外部から批判されてきたし、内部でも散々論じられてきただろうから、単純に善悪に二分したりはできないのだろう。
 先日、『エリザベス ゴールデン・エイジ』でのスペイン‐カトリックの余りに単純かつ陳腐な描き方に呆れたばかりだったので、余計にそう感じられるのかもしれない。

 たぶん『イースタン・プロミス』でヴィゴ・モーテンセンがアカデミー候補にならなければ日本公開しなかったかもしれない『アラトリステ』、実は出来を危惧していたのであった。
 理由は二つあって、一つは5巻にも及ぶ原作を詰め込んだ脚本。確かに、はしょってるなあ、という箇所が多々あって、話の繋がりがよくわからなくなることも少々あった。が、プロットがそれほど重要でない作りなので、それほど問題ではない。何よりも細部を鑑賞すべき映画なのである。

 危惧していたもう一つの理由はヴィゴ・モーテンセンで、口髭が似合わないしスペイン風の衣装も似合わない(北欧系の顔でも、眉が濃かったら少しは違ってたかも……どのみち体型にも合ってないんだが)。ミスキャストではないかという印象があったのだが、それはスチールの上だけのことで、実際に動いてるところは非常にかっこいい。剣技もかっこいいが(スタイルが全然違うからでもあるんだが、アラゴルンとイメージが被ることはない。同じボブ・ロバートソンの指導だが)、フランドルの塹壕を破壊するために、塹壕の下に掘られた坑道を這いずって行くとことか。
 全体に淡々とした作りなんだが、戦闘シーンが多く、どれも見応えがあった。

 主要なキャラクターを演じた役者たちは、プロフィールによると国内外のいろんな映画に出ていて、私が観てるのも多いんだが(『バンテージ・ポイント』とか『ヴァン・ヘルシング』とか『バッド・エデュケーション』とか)、どの役をやってたか全然思い出せん。判ったのは、主人公の恋人役のアリアドナ・ヒルだけで、『パンズ・ラビリンス』で薄幸なお母さんをやってた人だね。

 アラトリステの養子のイニゴにも恋人がいる(『ヴァン・ヘルシング』で吸血鬼の一人だったエレナ・アヤナ)んだが、これが清々しいくらいに欲望に忠実な女である。すでに幼少のみぎりにイニゴに一目惚れし、わざと彼にぶつかって足を挫いた振りをして家までお姫様抱っこで送らせ、自分と彼の指先を切って血を混ぜて「一生離れないわ」と宣言し、長じてからは養父アラトリステから離れろとイニゴに要求し、拒否されると刃物で刺し、伯爵と結婚させられそうになると駆け落ちを迫るが、土壇場になって富と地位が惜しくなって約束をすっぽかす。
 こういう女なんだけど、多少なりとも批判的な視点で描かれてるのは最後の裏切りだけで、それまで散々イニゴを振り回したことについては全然……スペイン人はこういう女がいいのか?

 フェリペ四世役のサイモン・コーエンは、プロフィールが見つけられなかったんだけど、本物のフェリペ四世の若い時(の肖像)に雰囲気がよく似ている。

Philipiv  サイモン・コーエンの画像も並べられればよかったんだけどね。面長で色素が薄くて、さすがに受け口でこそないが弱々しい感じの唇、下がった眉といった個々のパーツも結構似ている。スペイン・ハプスブルク家よりオーストリア・ハプスブルク家の系統っぽい感じ、虚弱っぽくていかにもマルガリータ王女の父親っぽい感じ。

 容姿を基準にしたキャスティングであろう。一言も台詞がなかったのは、スペイン語が話せないとかそういう理由からだろうか。

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菌類のふしぎ展

 今年最初の鑑賞記。上野の国立科学博物館にて。

 評判どおり、ぬるい展示。『もやしもん』のコラボ企画なわけだけど、私は未読である。今後も読むことはない。一度パラ見したら、むいむいが出てきたからである。あかんねん、むいむいあかんねん怖いねん。
 展示物(標本や模型、図版)に交じって、作者直筆の落書きや菌のキャラクターのパネルやフィギュア(っていうのか、ヒト形じゃなくても)がいっぱい。それに喜ぶファンもいっぱい。展示物と客寄せを照らし合わせて喜んでる人たちならいいんだけどね、展示そっちのけで落書きやフィギュアの写真を撮りまくる人たちも(主に判りやすい見た目の男性)。前に陣取って撮り続けるので、かなり迷惑である。
 そして、フィギュアはたいてい一個だけではなく数個以上まとめて並べられ、接着剤で固定されてるわけだが、ところどころ、接着剤の跡だけ残っていたりする。盗ったの? 誰か盗ったの?

 展示物について。標本に、どこで採取されたか記されてない。駄目。国内の標本が中心のようだが、海外の物も少数あるようだ。そしてその辺りの説明もない。とにかく全般に解説が少なすぎる。毒茸や植物に疫病をもたらす菌類についての展示はあったが、どちらも半端。黒黴の毒素や真菌症についてはまったく触れられていない。まあ、真菌症の病態の展示なんかしたら、一気に衛生博覧会(または皮膚科の待合室)になっちゃうけどさ。

 展覧会自体は駄目だったが、展示を見ていると菌類や共生についての知識が芋づる式にいろいろ思い出されてきたんで、それなりに楽しかったけどね。メキシコの珍味、黒穂病のトウモロココシ(ウィトラコーチェ)とその缶詰も見れたしね。

 去年はDVDはそれなりに本数を観たが、展覧会はそこそこ、劇場での映画鑑賞はかなり少なかった。コンサートは一回も行ってないし(一昨年、チケットを家に忘れて鑑賞できなかったショックが未だに尾を引いているのである。しかし情けない理由だな)。
 今年は、いろんなものをたくさん鑑賞したいです。でもその前に、早く人間になりたい。

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あけましておめでとうございます

 旧年中はヘタレですみませんでした。

 今年こそは……今年こそは……!

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