大災厄
08年7月の記事に加筆修正。
シリーズの基本設定の一つ。地球規模の災厄と文明崩壊。スペイン語では「カラミダード」calamidad。これだけだと実際には、単に「災厄」って意味なんけど(英語だとcalamity)、それはともかく。
22世紀末、世界各地の動植物にさまざまな疫病が発生する(『ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち』所収:「The Show Must Go On, and...」および「'STORY' Never Ends!」)。
病原体はいずれも新種で、致死性、感染力、薬剤耐性が異常に高く、しかも変異が速いため治療も予防も追いつかない。疫病と飢餓により、政治と経済は混乱し、二世紀近く続いてきた平和と繁栄は終焉を迎える。
2230年代も終わり近くになって、すべての元凶はたった一種のウイルスであるらしいことが明らかになる。このウイルスは、「キルケー」と仮称された。
しかし人類を滅亡寸前まで追い遣ったのは、疫病や飢餓そのものよりも、人間同士の殺し合いだった。大量破壊兵器が災厄を拡大し、地球は荒廃する。
まだそれなりに科学技術が残っていた時代には、工業汚染も災厄に拍車を掛けた。
やがて文明は完全に退行し、科学技術による大量殺戮と大規模な環境破壊はなくなる。『グアルディア』の頃には、ウイルス禍は小康状態となっており、地域によっては文明の復興が始まっている。しかし旧時代の記憶は失われ、大災厄とかつての繁栄は伝説と化している。
「大災厄(カラミダード)」とは『グアルディア』の中での呼び名であって、『ラ・イストリア』では災厄が現在進行中なので、総称は存在しない。時代や地域、文化によって、呼び名は異なり、語られる伝説もさまざまである。
『ミカイールの階梯』に於いては、カタストロファ(破滅 катастрофа)、ジャーヘリー(暗黒時代 ラテン文字表記はjahely)と呼ばれる。前者は中央アジア共和国での呼称、後者はマフディ教団領での呼称である。
共和国も教団もそれぞれ、人類が正しいイデオロギー(ルイセンコ主義とマフディ信仰)を蔑ろにした報いとして災厄と文明崩壊が起こった、と説く。破滅、暗黒時代、という呼称は、そうした史観の表れである。
なお、災厄に先立つ「イデオロギー的に間違った時代」を、中央アジア共和国では「大反動時代」と呼ぶ(具体的には、ソ連崩壊後から遺伝子管理局支配の二百年余り)。
マフディ教団では、災厄と「間違った時代」を併せて「暗黒時代」と呼ぶ(「間違った時代」がいつ始まったかは明らかにされていない)。災厄の時代のみを「暗黒時代」と呼ぶこともある。
災厄の具体的な事例
最初の大規模な災厄は、欧州(エウロパ)大飢饉である。土壌微生物の変異から植物に影響が及び、食料生産が壊滅的な打撃を受けた。これにより、欧州人の大離散が始まる。
中米では密林の枯死、南米では密林の異常繁殖が始まるが、まだこの時期は人類に対する影響はそれほど大きくない。
エウロパ大飢饉によって、ユーラシア全土で西から東への民族大移動が始まるが、この第一波が終息しないうちに、第二の大飢饉と大移動が起こる。今度の原因は草食禽獣の激減だった。腸内のセルロース分解微生物の変異によるもので、特に反芻動物と馬は絶滅の危機に瀕した。
これらの人口移動には無論、さまざまな規模の暴力が伴った。
海洋生物の被害も深刻で、23世紀半ばのカリフォルニア半島の太平洋岸では、鯨の回遊が見られなくなり、鯨が定住するほど豊かだったコルテス海(カリフォルニア湾)では鯨も魚も死に絶えた。
同じく23世紀半ば、北米では白人至上主義が支配的になったため、有色人に分類された人々が大量に南へと逃れた。政治的な軋轢に加え、中南米の人々の「北米人に病原体を持ち込まれる」という恐怖が、南北アメリカ戦争(第二次)を引き起こすことになる。
以上のヨーロッパ、中央アジア、中南米以外の地域に於ける災厄の事例は、今のところ不明である。
関連記事: 「年表」 「キルケー・ウイルス」 「コンセプシオン」 「絶対平和」
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