バーン・アフター・リーディング
ブラッド・ピットが本物のバカに見えるのがすごい。ジョージ・クルーニーの「バカ」演技が、これまでのコーエン兄弟作品(『オー、ブラザー』『ディボース・ショウ』)の時と同じく大仰であるのに対して(まあ彼の場合、これくらい大仰にしないと「ジョージ・クルーニーっぽさ」を払拭できないのだろうが)、ピットの場合は本当にナチュラルにバカに見える。
これまで彼が演じてきた役が、頭がよさそうだったかというと、そんなことはないんだけどね。しかし、バカを演じて本物のバカに見えるのはすごい。
コーエン兄弟が最初に思い付いた絵面は、「ジョン・マルコヴィッチがバスローブ姿(下はランニングシャツとトランクス)で斧を片手に歩き回っている」だったそうな。で、本当にそのまんまの映画でした。
ただし、「ジョン・マルコヴィッチが(中略)斧を片手に歩き回っている」ような映画はたくさんあるが、これはコーエン兄弟印の「ジョン・マルコヴィッチが(以下略)」映画である。素晴らしい。
ナチュラルという点では、ティルダ・スウィントンもナチュラルに怖かった。終盤の仕事中の彼女は、さながら白い魔女だ。
マルコヴィッチはいつもどおり見るからに異常だが、登場人物たちの中で実は一番病んでいるのは、ジョージ・クルーニーだろう。セックス中毒で陰謀パラノイアなのはまだしも、自宅の地下であんなものを妙に器用に製作し、それを愛人ばかりか妻にも見せるつもりだったらしいのである。逆に、一番社会的にまともで、かつ巧く世渡りしているのは、彼の妻だなあ。
エンドクレジットに流れる「CIAマン」もまた素晴らしかった。阿呆で。
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