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ボグダーノフ『赤い星』

 カテゴリー「思い出し鑑賞記」は、数ヶ月以上前に鑑賞したものの感想です。

『赤い星』 ボグダーノフ 大宅壮一・訳 新潮社 1926(1908)

 国会図書館にて、マイクロフィッシュ保存されているものを拡大鏡で読む。革命前に表舞台を去った人物の、しかもSFだから、聞いたこともないような出版社から出ているのだろうと思ったら、新潮社だったので少々驚く。1926年当時でも、けっこう大手だったよな。
 しかも翻訳者が大宅壮一である。えーと、大宅壮一って、あの大宅壮一? 国会図書館ホームページの書誌表示では生没年が1900-1970となっていて、あの大宅壮一と一致するので本人のようだ。ドイツ語からの重訳。実は有名だったんだろうか、『赤い星』。

 ロシアの若き革命家レオニードが、メンニという名の外国人と会うのだが、実はメンニは火星人である。レオニードを人類の代表として適格と見込んで、火星に連れて行く。火星人たちは世界各地に潜入していたのだが、ロシアが最も前途有望な国なのだそうである。ああそうですか。

 ボグダーノフのもう一つのSF小説『技師メンニ』は、『ロシア・ソビエトSF傑作選(上)』(早川書房 深見弾・訳)で読める。『赤い星』で主人公を火星に導く(だけの)役柄のメンニが延々と思想を語っているだけである。同じ思想小説でも、先に書かれた『赤い星』のほうは物語や設定のおもしろさがある。

 主人公はネッティという名の若い火星人に惹かれる。ネッティは女性なのだが、火星人たちは外見から男女の区別がほとんど付かないため、主人公は当初ネッティを男性だと思い、なぜ「彼」にこうも惹かれるのだろうと思い悩む(その辺、あまり突っ込んでないが)。
 ネッティが女性だと判明すると、一気に恋愛に発展するが、すぐに火星人の恋愛観や貞操観が地球人(当時のロシア人)に比べてかなり自由であることを知り、嫉妬に苦しむ。wikiによると、このくだりはSFに於けるフェミニズム的主題の走りでもあるらしい。

 火星はユートピア(完璧ではないものの)として描かれ、労働形態や育児方法は「理想的」なものとして描かれる。それが1920年代にソ連で行われた実験的な試みとけっこう合致していたりして、ボグダーノフの影響力の大きさを感じさせる。
 結局、それらの試みは頓挫するわけだが、ボグダーノフ自身も1928年、『赤い星』で描いた「輸血による不老法」を自分を実験台にして行おうとして、それが元で死んでいる。なんつーか、偉大なる奇人だね。

 本文中、三箇所ほど伏字があった。一つは「彼等の間には×隊と証する訓練された人々から成り立ってゐる有力な虐殺團があります。」(地球の制度について)という一文で、伏せられているのは「軍」であることは容易に判るが、ほかは「つまり地球では暴力が××の假面を被つてゐます。」みたいに二字の語が二字とも伏せられてるんで、推測できひんかった。「政府」とかかなあ。

参考記事: 「ロシアのダーウィニストたち」 

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