ヒトラーの贋札
第二次大戦中、ドイツが英米の経済撹乱を目論む。で、強制収容所でユダヤ人たちに贋札作りをさせるのである。
印刷工や金融業者など、技能や知識を持った者たちが各地の収容所から拾い集められる。
贋札工場のユダヤ人たちは、一般囚人に比べれば天国のような生活を与えられる。食事は充分だし、ベッドはすし詰め状態だが柔らかくて清潔だし、狭いながらも運動場まであり、日曜は休日でシャワーが浴びられる。最低限の「健康で文化的な生活」である。
彼らの仕事を監督するのは親衛隊員とはいえ「人道的」な人物で(自称元コミュニスト)、仕事場では常に美しい音楽が流れている(主にカンツォーネである)。
しかし音楽は外の物音(一般囚人の悲鳴と看守の怒声、そして銃声)を掻き消すためのものであり、彼らもまた贋札作りに失敗すれば命はない。
以下、ネタばれ。
ポンド札の偽造は大成功し、贋札作りたちの首は(文字どおり)繋がるが、ドル札偽造の段階になるとアドルフ・ブルガーという若い印刷工がサボタージュを行う。
ブルガーは妻をアウシュビッツで殺されている。旅券偽造担当にされた男は、「見本」として送られてきた本物の旅券の中に、自分の子供たちのものを見つけてしまう。壁の外では一般囚人たちが日々殺されていく。
ブルガーのサボタージュに仲間たちは気づいていながら密告はせず(彼を非難はするが)、ドル札偽造を数ヶ月間遅らせたことで、彼らはドイツの敗北にいくらか貢献することができた。
そのため「美談」ということになり、特にブルガーは賞賛されることになるのだが、もし彼ら全員もしくは幾人かだけでも殺されていたら、或いはブルガーが密告されていたらどうなっただろう。
原作はブルガーの著書だそうである。彼ではなく、贋札工房の「主任」サロモン・ソロヴィッチ(娑婆で贋札作りを生業にしていた)の視点にして成功していると思う。親衛隊少佐がサロモンを逮捕した捜査官だった、という「因縁」は少々やりすぎのような気もするが。
この少佐がまた、偽善(自覚)と独善(無自覚)が絶妙に入り混じった奴でなあ。こういうドイツ人は確実に何%かはいたんだろうなあ。
戦後、サロモンはカジノで一人の若い女と行きずりの関係を持つんだが、どうも見覚えがあるような気がすると思ったら、ドロレス・チャップリンだった。いや、本人は初めて見たんだが、笑うと口許が叔母さんとお祖父さんによく似てるんだわ。
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