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テングリ大山系一帯

『ミカイールの階梯』の舞台。

 テングリ大山系とは天山山脈のことだが、「天山」はモンゴル語の呼称「テングリ・オーラ」の漢訳であり、作中ではこの地から中国系勢力は撤退してしまっているので、本来の「テングリ」の呼称が復活している(「テングリ」という言葉はトルコ系言語にもある)。また、天山山脈は幾つもの山脈の複合体であり、「大山系」と呼ぶほうが適切である。

 ただし、『ミカイールの階梯』の舞台はテングリ大山系(天山山脈)の西部(旧ソ連領)が含まれていない。天山山脈東部とその南北の盆地(タリム盆地とジュンガル盆地)は、現代の区分だと新疆ウイグル自治区にそっくり該当するのだが、文明崩壊後の25世紀の作中に於いては、もちろん適切な名称ではない。
 ちなみに「新疆」とは「新しい境界」「新しい領土」といった意味で、18世紀にこの地を支配していたジュンガル帝国が清朝に滅ぼされ、領土に組み込まれた時からの名称である。
 新疆ウイグル自治区の呼称はほかに「東トルキスタン」があるが、これも以下の理由によって本作に於いては適切ではない。

 本作というか、《HISTORIA》シリーズの設定では、22世紀末から始まったウイルス禍によって、まずヨーロッパで大飢饉が起き、大量の難民が世界各地に離散した。それによって、さまざまな混乱、紛争がもたらされた。
 ユーラシアでは、バルカン半島、西トルキスタン(旧ソ連中央アジア)、さらには西アジアの人々が、ヨーロッパ難民に押し出される形で西から東へと玉突き状に民族大移動が起きた。
その結果、テングリ大山系一帯、特に南部と西部では、イラン語系民族が多数を占めるようになっており、「トルコ人の地=トルキスタン」という名称は無効になっているのである(同様の理由で、「ウイグル人の地=ウイグリスタン」も適切ではない)。
 なお、割合としては少ないがヨーロッパからの難民もおり、ロシア・スラヴ系が中心である。

 ロシア語では、スレードニャヤ・アジアСрдняя Азияとツェントラリナヤ・アジアЦентрарьная Азияという二つの語があり、どちらも訳せば「中央アジア」となるが、スレードニャヤ・アジアのほうは西トルキスタン、ツェントラリナヤ・アジアは東トルキスタンに相当する。
 つまり、「ツェントラリナヤ・アジア」に相当する日本語があれば、なんの問題もなかったんだけどね。ないからしょうがない。「テングリ大山系一帯」とでも呼ぶしかないのであった。

 この「テングリ大山系一帯」で対立する二つの勢力、中央アジア共和国とマフディ教団のうち、前者の支配層はロシア系難民の子孫であり、無論、「中央アジア」は「ツェントラリナヤ・アジア」である。

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