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各作品に於ける軍事事情 Ⅱ

の続き

『ミカイールの階梯』
舞台: 2447年のテングリ大山系一帯(現在の新疆ウイグル自治区に概ね相当)。
 中央アジア共和国とマフディ教団の対立が約半世紀続いているが、これは双方の体制維持のための偽りの対立である。二つの領土が接する境界線は長いが、暴力はタリム盆地東部とカラシャフル盆地内に限定されている。
 マフディ信徒によるテロルと共和国のミサイル攻撃が中心で、ほかに小規模な戦闘が時々行われる程度。だが無論、末端の兵士(戦闘員)や該当地域の民間人の被害は決して小さいものではない。

 共和国とマフディ教団が相次いで誕生する以前から、旧時代の遺産を守護するミカイリー一族の存在によって、テングリ大山系一帯には20世紀の武器兵器を復活させるに足る工業力が保たれていた。ミカイリーの協力を得た共和国は、まずАК(カラシニコフ自動小銃)を復活させ、征服活動を推し進める。在来勢力の軍隊の士気は総じて低かったので、大規模な戦闘は避けることができた。

 共和国の支配層であるルース(ロシア)族は、ソ連および帝政ロシアに強烈なノスタルジーを抱いており、政治、文化、軍事に至るまで何事につけても模倣しようと努力した。
 その結果、武器兵器も忠実に復元される。例えば装甲兵員輸送車では後部にハッチがないという明らかな構造上の欠点(後部にエンジンがあるため。兵員は天井や側面の狭いハッチから出入りすることになり、戦闘中は非常に危険。標準的な装甲兵員輸送車はエンジンを操縦室と兵員室の間に置いて、後部にハッチを設ける)まで頑なに復元されている。

 2447年時点での共和国軍の装備は、1980年代のソ連軍を基準としている。戦車はТ‐72、装甲兵員輸送車はБТР‐80、対戦車ロケット砲はРПГ(RPG。作中では明記されないが、たぶんРПГ‐16)、拳銃はマカロフ、自動小銃はАК(74)。
 しかしソ連に比べてあらゆる面で規模が小さいことが、軍事にも影響している。例えば兵器についても、対戦車ミサイルは1960年代の「マリュートカ」を使用しているのは、それ以上性能の高い後継機の量産が不可能だからだと思われる。

「封じ込めプログラム」のために空軍はなく、大きな湖も河川もない内陸部なので海軍(水軍)もない。陸軍は「地上軍」と称し、歩兵は「狙撃兵」と称する。ただし機動力を重視したソ連では第二次世界大戦以降は行軍の基本は自動車(装甲車等)とし、歩兵はすべて「自動車化狙撃兵」と呼ばれるようになったのだが、中央アジア共和国では、それだけの自動車(非装甲車でさえ)の生産は不可能なので、さすがに「自動車化」は付けない。

 戦車、装甲車類の総数は少なく、中央(首都一帯)に集中的に配備されている。マフディ教団との戦闘や、国内の反体制的な神秘主義信徒の鎮圧(という名の一方的な虐殺)に使用されることもあるが、主な用途はパレードや派手な演習で支配層の虚栄心を満足させることであろう。
 人口が少ないため、徴兵はおそらくソ連のそれより早く16歳くらいから。現役の将兵の数は6万。大規模な戦争は25世紀初頭以来起きていないので、予備役動員の体制は整っていない。

 ソ連と同じく「軍管区」を軍事行政単位とするが、ソ連の軍管区があの広大な領域を16に分けたものであったのに対し、中央アジア共和国では行政単位の州と同等のものでしかない。各軍管区には複数の師団が置かれるが、その師団もソ連では一万数千人規模だったのが、共和国では一万人以下で2、3千人の師団もざら。中央軍管区では例外的に7、8千人規模。なお実際に2、3千人規模の部隊を師団と言い張っていたのは、ソ連に支援されていたアフガン政府軍である。

 建国期、創設されたばかりの軍には、生え抜きのルイセンコ主義者の中から選ばれたコミッサール(政治将校)が各部隊に置かれていた。政治教育が彼らの任務だが、権限が指揮官に匹敵するほど大きかったため、命令系統に混乱を生じ、廃止された。
 共和国軍は人口構成を反映して兵卒や下士官の大半がアジア人であるが、民族主義の台頭によって統制強化の必要がでてきたため。2448年にコミッサール制が復活。権限は建国期よりは縮小されたが、副指揮官に相当する。

 2429年、当時の独裁者「人民の父」、封じ込めプログラムは迷信だと確信し、空軍と戦略ロケット軍の創設を命じる。無論、どちらも失敗し、人民の父は側近らに暗殺される結果に終わったが、ロケット/ミサイルの技術は向上することになる。
 作中後半に登場する車両搭載型多連装ロケット発射機は、「カチューシャ」と呼ばれる。実際には同種のロケット発射機のうち、この愛称で呼ばれたのは第二次大戦中のもののみ。「カチューシャ」の愛称は大祖国戦争(独ソ戦)の輝かしい思い出と堅く結び付いているため、採用されたのであろう。

 マフディ教団の工業力は低く、重工業製品は武器兵器も含め、共和国からの密輸に頼っている。小火器や地雷、対戦車ロケット砲などが中心で、境界地域の共和国軍の横流し品を地元住民が運搬するかたちで密輸は行われている。軍服などもそのようにして簡単に手に入る。
 軍隊はおそらく志願制だが、人口に対する兵士の比率は共和国よりも大きく、士気も高い。兵士の制式名称は「聖戦士(モジャーヘド)」だが、単に「戦闘員」と呼ばれることも多い。

 マフディ教団をはじめとして、歴代の有力者の庇護を受けてきたミカイリー一族だが、自衛のために武装(マフディ教団を通じて共和国製を入手)はしており、戦闘訓練も行っている。しかし警戒が充分だったとはいえず、アリアンの急襲に対し為す術もなかった。

 手工業によるライフルの製造は、災厄後も連綿と受け継がれてきた。共和国とマフディ教団の体制下では、民間の武器製造は禁止された(刀剣類については、それほど統制は厳しくないと思われる)が、イリをはじめとする辺境では製造が続けられている。
 ステップからの侵入者たちが使用するライフルも、彼らが独自に製造したものである。

関連記事: 「テングリ大山系一帯」 「マフディ教団と中央アジア共和国」 「ミカイリー一族」 

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