チャーリー・ウィルソンズ・ウォー
1980年、下院議員のチャーリー・ウィルソンは偶々目に留まった(ラスベガスのホテルでストリッパーと混浴中に)TV番組でアフガン戦争に関心を持つ。それで調べてみると、CIAのアフガン支援予算が500万ドルしかなかったので、二倍にするよう働きかける。
すると早速、旧知の大富豪(元ミス・コットンボール)にして熱狂的なファンダメンタリストのジョアンが接触してきて、パキスタン大統領に会うようウィルソンに強要する。
パキスタンでウィルソンは、前任者を処刑した大統領とその側近たちに、無知を散々詰られ、その後難民キャンプに連れて行かれて衝撃を受ける。
アフガン戦争については昨冬、いろんな本を読んだが、そもそも出版点数が少なく、90年代前半より後に出たものがない(少なくとも日本語文献では)。日本人が書いたものでも欧米人が書いたものでも、アメリカの支援についてはほとんど述べるところがなく、特にイスラエルも協力していたことにはまったく言及していなかった。本当に極秘だったんだなあ。
撃墜された航空機も含め、ソ連・ムジャヒディン双方の被害については、双方の発表に拠るしかなく、しかも双方とも嘘八百を発表するのでまったく当てにならない、とどの文献でも投げ出していたが、この映画によると、どうやらCIAは少なくとも航空機の撃墜数はきちんと把握していたようだ。まあ、支援するからにはそれくらい当然だろうけど。
トム・ハンクスの顔をスクリーンで観るのは耐え難いので、映画館での鑑賞を見送ったのに加えて、レンタル開始後は借りて観る余裕がなかった。まあ私が知りたかったのは地上戦についてであって、航空機の撃墜じゃなかったから……
トム・ハンクスの顔は嫌いだが、演技は必ずしも嫌いではなく、良いと思うこともある。この映画での彼は大変良い。こういう多面性のある役とか悪役とかをもっとやってくれたらいいのに。そしたら映画館にだって頑張って観に行くよ。
特に、彼が功労者として表彰される場面が、冒頭と最後に二度繰り返されるのだが、冒頭では単に感動を噛み締めているように見える彼の表情が、すべての顛末を観終わった後では、無念さを噛み締めているのがありありと伝わってくる。いや、ほんとに巧い役者ではあるんだよね。
支援が成功し、ムジャヒディンにも感謝されて、チャーリー・ウィルソンは得意の絶頂にあったわけだが、ソ連撤退後の祝賀パーティーでの、「今後の復興支援が重要だ」というCIA局員の言葉に、「そんな面倒な話は聞きたくない」と拒絶する。
彼はすぐに反省して、アフガンに小学校建設のために100万ドルだけでも回すよう提言するが、「そんな面倒な話は聞きたくない」と却下される。で、その後の事態に至るわけである。
国際社会に於けるアメリカの政策の問題点をアメリカ人がきちんと把握している、アメリカ映画としては非常に稀有な例だなあ。
ムジャヒディン支援を渋っていた長官が、チャーリー・ウィルソンに難民キャンプに連れて行かれて、同じく衝撃を受けて難民たちに支援を約束する。彼らの歓呼を受けてすっかり救世主気取りになり、「アッラーフ・アクバル!」とか叫んでやがんの。調子こいてるなあ。そういう人たちが、ソ連が撤退した途端、アフガニスタンに興味を失うのである。
フィリップ・シーモア・ホフマンは、巧いけど似たような役が多いし、何しろ容姿に特徴があり過ぎるからいつも同じに見えてしまうな、と思っていたんだけど、今回演じたギリシア系移民二世のCIA局員役は、髭と老けメイクもあって、まるきり別人に見えた。声も相当変えてるようだ。
久しぶりに見たジュリア・ロバーツはだいぶ老けてたけど、そのため却って貫禄が増している。演技も随分巧くなってるよな。
1時間半ほどですっきりまとまって、大変よい作品でした。
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