« 下りの船 | トップページ | ハーフェズ(守護者) »

ハーフィズ詩集

 読んだ直後に書いたメモを基に思い出し。

『ハーフィズ詩集』 黒柳恒男・訳 平凡社東洋文庫 1986
 シャムス・ウッディーン・ムハンマド(1320?-1390)、シーラーズ生まれ。ルーミー(1207~1273)の時代はモンゴル侵攻の最中だったが、ハーフィズが生きたのはイル汗国が崩壊し、イランが分裂した時代。

 ハーフィズ(現代ペルシア語ではハーフェズと発音)は、守護者とか保管者という意味で、コーランを丸暗記した者に与えられる称号。その作品は神秘主義的傾向が顕著な叙情詩、と見做される。アラビア語の「抒情詩」の原義は「恋愛詩」だそうで、彼の作品の大半も恋と酒を主題としたものである。
 現代に至るまで戒律に厳しいイスラム国家でもハーフィズの詩が許容されてきたのは、酒と恋の讃歌が神の讃歌とも解釈できるからである。まあ実際、そういうつもりで書いてるんだろうけど、同時に酒と恋を讃えているのも明らかで、だから庶民は彼の詩を愛好してきたわけである。
 単に酒と恋を賞賛の対象にするだけじゃなくて、禁欲を偽善と言い切り、そういう偽善者が集う場所ではなく異教徒が経営する酒場で私は神の栄光を見る、といったような結構過激な表現が多い。その辺、現代イランなんかではどう解釈されてんだろうなあ。

 もう一つ気になったんが、彼の詩で謳われる「恋人」は男女どっちとも解釈できるものが多い。ライラとかシーリーンのような伝説の美女に喩えられてる場合もあるが、イスラムでは美男の代名詞であるヨセフに喩えられてる「恋人」も多い。現代ペルシア語では品詞に性がないし、彼・彼女の区別もないけど、中世ペルシア語ではどうだったんだろうとか、「美女」と訳されてる語は、果たして女だけを指すのかとか。
 少なくとも『アラビアン・ナイト』では美女と美少年の形容はほぼ一緒で、ただ美少年特有の形容としては「顔の産毛(生え始めの柔らかい髭)」がある。ハーフィズの詩にも、顔の産毛の賞賛は幾つかあるんだよね。女だって顔に産毛は生えるけど、脱毛する習慣だったろうしなあ。

『アラビアン・ナイト』(東洋文庫版)には「美女と美少年、どちらが具合がいいか」を巡って美女が稚児趣味の法学者(だったか、とにかく宗教的に権威のある人)と論争する、という実にしょうもない話が収められている。あんまりしょうもないんで、どんな結論だったかは忘れた。飲酒も自由恋愛も同性愛も刑罰対象の現代イスラム諸国と違って、昔のイスラムはいろいろと寛容でしたね。

映画『ハーフェズ ペルシャの詩』感想

オマル・ハイヤーム『ルバイヤート』感想

|

« 下りの船 | トップページ | ハーフェズ(守護者) »

思い出し鑑賞記」カテゴリの記事