« 参考文献録 | トップページ | 参考文献録 »

参考文献録

『霊玉伝』 バリー・ヒューガート 和邇桃子・訳 早川書房 2003(1988)
the story of the stone
『鳥姫伝』続編。相変わらず博覧強記で、相変わらずでたらめ。

 このシリーズがいまいち微妙なのは、このでたらめぶりが、計算されたものなのか、無知によるものなのか、それともいい加減さによるものなのかが判然としないところだ。
 例えば、「ソグド人の旋回舞踏の女性」がちらっと登場するのだが、この旋回舞踏は「玉乗り」である。「ソグドの旋回舞踏」すなわち胡旋舞を玉乗りだとする史料はあり、唐代の中国では玉乗りも胡旋舞と呼ばれたようだが、少なくとも本来のソグドの胡旋舞ではない。ヒューガートが胡旋舞=玉乗りとしたのは、このことを知った上で敢えてなのか、知らないからなのか、知ってるけどどうでもいいからなのか。
 この、すっきりしない感がいちいち引っ掛かって、いまいち楽しめないんだよな。

 エジプトのミイラが登場するのは、アメリカ人には馴染みのないキョンシーをイメージしやすくさせるためだろう(ハリウッドのミイラは人を襲うからな)。しかし中国には幾らでも残酷な刑罰があるのに(唐代にはそれらがだいぶ緩和されたのだが)、サーサーン朝の処刑法である「人間の生皮を剥いで中に藁を詰めて人形にする」を出した意図が不明。「羊皮紙」と「粘土板」へのこだわりも意味不明だ。
 それからこれは訳の問題だが、せっかく頑張って「ミイラ(乾屍)」「マンドラゴラ(恋茄子)」「タール(瀝青)」等、漢語を使ってるのだから、地名も「エジプト(埃及)」「ソグド(胡?粟特?)」「バクトリア(大夏)」等とやったほうがよかったんじゃないか。エジプトの神々やギルガメシュにも現代中国語の漢字表記を使え、とまでは言わんが。

 唐の太宗の時代に『紅楼夢』があったり、則天武后がすでに死んでることになってるのは全然構わないんだが、前作での設定(「秦」が国家内国家として存続してたりとか)が「なかったこと」になってるのが、じんわりと気持ち悪いのは、きっと私に設定厨の気があるからだということにしておこう。

 まあともかく時代錯誤は前作以上だが、明らかに前作の時より作者の知識は増大しており、前作に散見された無個性な、悪い意味での無国籍的なガジェットやイメージはかなり影を潜め、「似非中華」の世界観はかなり一貫している。あと、技巧も向上してる。てゆうか、前作のあれはやっぱり下手だったんだな。

 本編序盤に登場したヤク中の美少女が重要な伏線かと思ったら全然そうじゃなかったのを除けば(ほかにもツッコミどころはあるが、ネタバレになるのでやめておく)、構成やガジェットにも破綻や悪い意味での冗長さが減っている。序章のシャーロック・ホームズのパロディも悪くない。
 ただ、結末はきれいに締められているとはいえ、前作のようなカタルシスはない。

『鳥姫伝』感想
『八妖伝』感想

|

« 参考文献録 | トップページ | 参考文献録 »

参考文献録」カテゴリの記事