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参考文献録

『東方奇譚』 マルグリット・ユルスナール 多田智満子・訳 白水社 1984(1938/1976)
nouvelles orientales
初版は1938年、1976年に改訂。

「老絵師の行方」「マルコの微笑」「死者の乳」「源氏の君の最後の恋」「ネーレイデスに恋した男」「燕の聖母」「寡婦アフロディシア」「斬首されたカーリ女神」「コルネリウス・ベルクの悲しみ」
「老絵師の行方」が中国、「源氏の君の最後の恋」が日本、「斬首されたカーリ女神」がインド、「コルネリウス・ベルクの悲しみ」がオランダ、ほかはすべてバルカン・ギリシアが舞台。

 中国、日本、インドを舞台にした三篇は、いかにも西洋人の空想によるものとはいえ、各国の雰囲気がそれなりに出ているように思う。訳文に拠るところも大きいのかもしらんが。
 しかし、日本人だと「白」と表現する肌の色も、「琥珀」色になってまうのね。「きわめて色の薄い」琥珀ではあるのだけど。

 バルカン・ギリシアの五篇は、これまたいかにも土俗的な雰囲気。悪くはないが、その土俗的なところに作者が安住してしまっているように思えて、読んでるこっちがなんとなく居心地が悪いのは、フランス人の作者にとって中国・日本・インドが架空の土地も同然のまるっきりの異国であるのに対して、バルカン・ギリシアの距離の近さによるものだろうか。「身近な異国」に対して、そんなにも安易に(少なくともそう見える)幻想を投影しちゃってることにだ。19世紀以前ならまだしも、20世紀だしな。
 まあ、そういうんが気になってしまうくらい優れた作品群ではあるということだな。ほかの欠点が目に付きすぎれば、作者と舞台の距離なんか気にならないだろうし。

 著者によると「東方」ものではない「コルネリウス・ベルク」をこの短編集に収めたのは雰囲気が他の8篇と共通するから、だそうである。老いた画家の凡庸な絵と対比されるのが17世紀前半にオランダで大流行したチューリップなのだが、チューリップが東方のものだということには直接にも間接にも一切言及してないので、特に関連付けてはいないようである。
 実際のところ、当時のチューリップ流行は東洋趣味とどの程度関係があったのかなあ。

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