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参考文献録

『八妖伝』 バリー・ヒューガート 和邇桃子・訳 早川書房 2003(1991)
eight skilled gentlemen
 シリーズ3作目の本書は、前作までの曖昧さ(作者が意図してやってるのか、単なる無知なのか、知ってるけど無頓着なのかが判然としない)がほぼ解消され、「似非中華風」世界観が首尾一貫している。いや、中国文化について詳しいとは決していえないので(専門は中世シルクロード文化史)、ただの印象でしかないんだが。訳者の和邇氏に是非元ネタを解説してもらいたいものだ。

 ともかく第1作『鳥姫伝』では無秩序な雑学レベルでしかなかった著者の知識が、本作では完全に衒学に陥っているのは間違いない(第2作『霊玉伝』はその途上)。
 まさしく陥っているわけで、前半は頻繁に薀蓄が挟み込まれていたが、後半は薀蓄すらなくなり、読者は完全に置き去りである。知識は詰め込めるだけ詰め込まれているだけでしかなく、作品の一部として機能しているとは言い難い。
 茶の密売を目論む高官たちの暗躍と、八匹の太古の妖怪たち(八妖)の暗躍とが巧く噛み合っていない。どっちも中途半端なんだよな。八妖の登場も駆け足だし。

 今回はキャラクターも弱く、ヒロインも悪役も印象が薄い。料理愛好家にして殺人鬼という涂宿六も、強烈なキャラクターになりそうだったにもかかわらず、なんだかよくわからないままに退場する。
 前作までの歴史改変もの要素が結構おもしろかっただけに、本作は中国神話ネタを詰め込めるだけ詰め込んだ結果、唐代という時代設定が完全に無意味になってしまっているのも残念だ。

 あと、一応ミステリ仕立てのシリーズである以上、3作すべてが「実は○○(キャラクター)は××(神仙もしくは怪物)だった」というオチなのは如何なものかと。
 諸事情により全7作の予定が、3作になってしまったのだそうである。そのことは気の毒だと思うが、ま、この辺りが潮時だったんじゃなかろうか。

 漢族による先住民迫害について幾度も言及されてるのは、やはり現代の中国政府を暗に批判してるんだろうな。『鳥姫伝』が書かれた70年代から、単に著者の知識が増えただけでなく、もはや異文化を「ワンダーランド」として無邪気に弄ぶ時代ではなくなってるわけだ。
 現代の民族観をそのまま過去に当て嵌めるのはどうかと思うけどね。少なくとも唐宗室は中華の皮を被った異民族だし。

『鳥姫伝』感想
『霊玉伝』感想

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