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参考文献録

『唐代伝奇集』 前野直彬・編訳 平凡社東洋文庫 1963-64
 全2巻。上巻は比較的長い作品、下巻は短い作品を集めたもの。
『抱朴子』から『捜神記』まで一通り読んできたが、上巻の作品群はそれら前代までの説話と比べてそれなりに独創性があっておもしろかったが、下巻は説話的な作品が多く、前代までのものとあんまり代わり映えがしないので途中で飽きた。
 下巻には「杜子春」と「山月記」それぞれの元ネタ、それにファン・ヒューリックの『観月の宴』の元ネタ「魚玄機の物語」が収められている。

 あと、これも下巻所収の「麺を食う虫」は石田幹之助の「西域の商胡、重価を以って寶物を求むる話」(『長安の春』)に挙げられてたのんだな。
 石田氏の論文は、「西域の商人が、中国人には価値のわからない宝を見出し、高額で買い取る」という唐~五代の小説に多く見られる類型について考察したものだが、『唐代伝奇集』にはこの類型に当て嵌まる話は上述の「麺を食う虫」しか収められていない。
 その代わり多かったのが、「何か怪異があって、中国人にはその謎が解けないが、偶々近くにいた西域人が解説してくれる」または「何か不思議な物があって、中国人にはその謎が解けないが、偶々近くにいた西域人が解説してくれる」。
 石田氏が論じた説話のパターンは後者が変化したものであるのは明らかだ。また前者だと西域人はたいがい僧侶だが、後者だと商人或いは富豪である。

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『神女――唐代文学における龍女と雨女』 エドワード・H・シェーファー 西脇常記・訳 東海大学出版会 1978(1973)
the divine woman: dragon ladies and rain maidens in T’ang literature
 英語だとwoman, lady, maidenと全部違うわけね。dradon ladyはハリウッドに於ける典型的な中国女(残忍な美女)の呼び名でもあるわけだが、まあとにかく。

 著者はアメリカの中国学者で、欧米の唐代文化研究では第一人者であるという(刊行当時)。東洋学を専門にする前は人類学を学んでいたという経歴を反映してか、まず中国神話に於ける女神の系譜を論じるところから始まる。
 龍を天(気象)と地(地上の水)、両面の属性を持つものとし、天の属性は男、地の属性は女に結び付けられる、という論考はごくオーソドックスなものだが、アメリカ人の学者がアメリカ人の読者に向けて解説する中国神話、というのはなかなか新鮮な印象を受けた。

 扱ってるのは唐代(およびその前の南北朝)の文学だが、詩が中心で散文(伝奇小説など)には一章を割いてるだけ(200頁弱の本文のうち40頁)。まあ似たような話が多いのでそれほど紙幅も必要ないということで、それは私も『唐代伝奇集』を読んで実感したばかりである。

 訳者の西脇氏はあとがきで「中国文学に関しては門外漢」と述べているが、相当下調べはしているようである。原註に挙げられた漢籍や中国人による論文のタイトルも、ちゃんと原題に直してあるし。「門外漢」による邦訳には、私でさえ気づくような酷い間違いが偶にあるからな。「ハオリムシ」を「硫黄酸化細菌」だとか言ってたり、『紅楼夢』を『石物語』とか言ってたり(『紅楼夢』の別名が『石頭記』なので英題がstone storyとなってるのを邦訳者が知らずに直訳)とか。

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