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参考文献録

『あやまちの夜』 ターハル・ベン=ジェルーン 菊地有子・訳 紀伊國屋書店 2000(1997)
la nuit de l'erreur
『砂の子ども』『聖なる夜』に続いて読んだわけだけど、格段の進歩が見られますね(何様)。前2作でいろいろ中途半端だった部分が、見事に昇華されている。

 第6章(全体の5分の1)までは、性的に奔放な少女ジーナの語りというベタな代物で、技術的に巧くはなってると思ったが、突出したところは見出せない。このままじゃ凡作だなあと思ってたら、第7章からはジーナは精霊のような存在となって5人の男たちに取り憑き、破滅させるという展開になる。しかもその過程は男たち自身と、同じくジーナに取り憑かれた講釈師夫婦によって語られるのだ。
 85年と87年に書かれた『砂の子ども』『聖なる夜』は連作で、一人の女の遍歴をテーマとしている。『砂の子ども』では複数の語り手を設定し、『聖なる夜』は幻想的な要素を取り込むというかたちで、どちらもマジックリアリズムを目指して半端に終わった(『聖なる夜』のほうは明らかに失敗)といったところ。
 10年後に書かれた『あやまちの夜』は、一人の女の遍歴を複数の人間に語らせ、かつ幻想的に描くという前2作と同じテーマと手法を用い、見事に成功している。

 読み進むにつれて、ラテンアメリカ文学の印象が強くなっていった。これはマジックリアリズム的というだけでなく、モロッコというスペイン(イベリア)文化の影響が強い土地が舞台になっているためでもあるようだ。
 しかし諸々のラテンアメリカ文学に比べると、荒唐無稽というか破天荒というか破綻寸前なところが少なく、構成に計算を感じる。良くも悪くもまとまっており、まあお蔭で読みやすいんだが。
 てなことを考えながら読んでいたら、後半なんとサルマン・ラシュディが登場した。しかもイブン・アル・ムカッファーという偽名を使っている。イブン・アル・ムカッファーは、8世紀半ばにカリフに仕えたペルシア系ムスリムだが、異端者(背教者)の疑いを掛けられ、「最も残酷な方法」で処刑された。その死の理由をもって、ラシュディの偽名に選ばれたのだろうけれど、インド起源の動物寓話『カリーラとディムナ』をペルシア語からアラビア語に翻訳したことにも因んでるかもしれない。

 ラシュディ未読なんだけど、ターハル・ベン=ジェルーンの「進歩」は、ラテンアメリカ文学からの影響じゃなくて、ラシュディからの影響かもしれん、と思う。作中に「ラシュディへのファンレター」まで収められてるし。ラシュディは今回読まない予定だったんだが、『千夜一夜』の翻案『ハルーンとお話の海』くらいは読んどこうかな。

 作中で日本のアダルトビデオに言及されていて、しかもありそうな内容(メイドものっぽい)なので、モロッコ(とフランス)で日本がどういうイメージが流布してるんだが少々気懸かりになる。

『砂の子ども』『聖なる夜』感想

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