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参考文献録

『イスラームの原点――【コーラン】と【ハディース】』 牧野信也 中央公論社 1996 (「イスラム思想」)
 本文350頁中、最初の50頁がイスラム成立の社会的・時代的背景、次の130頁がクルアーンについて、その次の30頁がハディース(ムハンマドの言行の伝承)について、残りの140頁がハディースの抜粋。

 前イスラム期のアラブの徹底した部族主義に対し、イスラムの教説は「神の前には親も子も兄弟もなく、たった一人で立つことになる」という個人主義である。それは当時のアラビア半島では商業の発達によって個人主義が芽生え始めていたからだ、といった解説は興味深いが、アラブの「民族性」についてあまりにもその特殊性を強調しすぎ、断定しすぎている。

 各民族特有の心性というものは確かに見出すことはできるが、それらはせいぜい「傾向」に過ぎない。それを、強固な実体を備えたものとして捉えると碌でもないことになるのは、多くの先例が証明している。
 特に「アラブの民族性」に対しては、欧米に於いて長年、「無味乾燥で即物的な(等々、ほかにも諸々のマイナス要素)セム族」という、ユダヤ人と込みで語られてきた歴史がある(アラブの「悪い意味での現実主義」と対立するものとして称揚されてきたのが、「アーリア系のペルシア人の叙情性」である)。
 そして日本人も長年にわたって、欧米のアラブ人論をまったく無批判に受け入れ(尻馬に乗って)、嬉々として「アラブの異質さ」を論じてきた。

 まあイスラムやアラブの研究者ともなれば、文献を読むだけでなく、実際に中東に行って現地の人々と接し、日本人との違い、異質さを実感しているんだろうけど、だからってそれが「強固な実体」であるかのように論じるのは、研究者としてどうかと思うよ。ましてもっと昔ならいざ知らず、本書の刊行は90年代なんだし。

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