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参考文献録

「ドニヤーザード物語」 (『キマイラ』 ジョン・バース 國重純二・訳 新潮社 1980(1973))
『千夜一夜』の外枠であるシェヘラザードとシャハリヤール王の物語およびその後日談を、ドゥニヤザードの視点から語ったお話。
『キマイラ』は三つの中編を収めており、二番目と三番目の「ペルセウス物語」と「ベレロフォン物語」は共にギリシア神話のパロディで相関関係にあり、その「外枠」を成すのが『千夜一夜』のパロディ「ドニヤーザード物語」というわけである。

 解説によると、「ペルセウス物語」と「ベレロフォン物語」に「外枠」物語を用意したのは、中篇集として一冊の本にまとめるためだったそうである(端的に言うと、そういうことだ)。そういう前知識を抜きにしても、やたらと技巧を凝らした二篇に比べて、「ドニヤーザード物語」はずいぶん単純である。
 まあ、凝ればいいというものでもないんだが、「ペルセウス」と「ベレロフォン」が、ギリシア神話や古代ギリシアの文化について相当下調べをした痕跡が明らかなのに対し、「ドニヤーザード」のほうは、少なくとも『千夜一夜』(おそらくバートン版)を一通り読んだのは確かだが、イスラム文化や『千夜一夜』の版ごとの違いについては無知もしくは無頓着なのが窺える。
 三篇とも、パロディなのでアナクロニズムが多用されている。「ペルセウス」と「ベレロフォン」では、登場人物が「レストランはギリシア料理しかない」とぼやいたり、久し振りに故郷に帰った英雄が、アメリカ文学の紋切り型をなぞってその寂れ振りを嘆いて「宮殿はそのままだったが、ペンキが剥げていた」等々、効果を上げている。
 しかし「ドニヤーザード」では、アナクロニズムでさえ、おざなりだしおもしろくない。

「ペルセウス物語」と「ベレロフォン物語」は、どちらもミドルクライシスを迎えた英雄が己の人生を回想する、という構成で、それ自体は大しておもしろくない。ただ、「ベレロフォン物語」が「ペルセウス物語」のパロディとなっているので、セットで読むとおもしろい。
 この中篇集全体でメタフィクショナルな構造となっているのはいいんだが、「ベレロフォン物語」で作者の他の作品についてかなりの紙幅を割いているのが蛇足。私がそれらの作品を知らないからだけじゃなくて、その下りを読んでも、それらの作品を読みたいという気にまったくならないから。

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