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参考文献録

『ヨーロッパ文明批判序説――植民地・共和国・オリエンタリズム』 工藤庸子 東京大学出版会 2003
 工藤氏はロティの『アジヤデ』の翻訳者で、その巻末解説は大いに同意できるところであったのだが、それよりも後に刊行された本書を見つけたのは、まったくの偶然である。
 サイードの『オリエンタリズム』からより発展した論考として読みたかったのは、つまり本書のような本だったのであった。見つけ出すまでに随分時間が掛かってもうた。

 第Ⅰ部.島と植民地(1.1870年代の地球儀とポリネシア幻想、2.「絶海の孤島」から「愛の楽園」まで、3.黒人奴隷と植民地、4.フランス共和国の奴隷制廃止派たち)、第Ⅱ部.言説としての共和国(1.国境の修辞学、2.「ナショナル・ヒストリー」から「国民文学」へ、3.共和国の辞典)、第Ⅲ部.キリスト教と文明の意識(1.知の領域としてのオリエント、2.セム対アーリア、3.記述されたイスラーム世界、4.非宗教性の時代のキリスト教)

 内容の要約を述べるのが面倒だったので、代わりに各章タイトルを列挙しました。
 まあヨーロッパの文学や思想に見られる他者像の分析としては大変おもしろかったが、本来の意味でのオリエンタリズム(すなわち東洋学)や、中東そのものの歴史や文化には立ち入っていない。
 だからヨーロッパ文学に於いて中東がどのように描かれたかを述べても、アラビアンナイトをはじめとする中東文学(の翻訳)からの直接の影響については、まったくといっていいほど触れていない。また、19世紀に確立された「高貴なアーリア」対「劣ったセム」という図式については、「白人対ユダヤ・アラブ」を中心として、「オリエントの中のアーリア人」としてはインドの支配層としてのアーリア人を取り上げるだけで、イラン人についての言及は皆無である。

 したがって、「ムスリム=アラブ=セム」という図式しか取り上げられていないのであった。実際にはムスリムという範疇の中でも「アラブ=セム」「イラン=アーリア」という分類が成され、アラブ=セムが貶められる一方で、イラン=アーリアが称揚されたこと、「ツァラトゥストラかく語りき」はそのブームの結果の一つだったんだが。

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