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参考文献録

『呪われた中庭』 イヴォ・アンドリッチ 栗原成郎・訳 恒文社 1983
 著者は1961年にノーベル文学賞を受賞したボスニア人(ユーゴスラヴィア人)。
「呪われた中庭」(1954年)、「胴体」(1937年)、「サムサラの旅籠屋の茶番劇」(1946年)、「さかずき」(1940年)、「水車小屋のなかで」(1941年)の5編は、19世紀のボスニアの神父が晩年に昔語りをする連作。舞台はボスニアおよびトルコ。
 
 東欧および近東のキリスト教徒とムスリムの間に、「彼ら」「我々」の図式がまったく見られない。ボスニアに於いては、そのような区別など存在しないということなのかもしれない。語り手はカトリックの神父で、著者自身もカトリックだそうだが、キリスト教徒もムスリムも完全に相対的に描かれている。
 著者は1975年に82歳で亡くなっているが、「サムサラの旅籠屋の茶番劇」で語り手が述べる「いろいろな災難がボスニア全土とわたしたちの修道院のうえに振りかかりました。わたしたちは、止むを得ず、多くの事柄を笑劇に転化して、その笑劇によって自分自身を防御し、身を保ってきたのです。それ以外に生き延びる方法はありませんでした」という言葉は、その後のボスニアの歴史を思うと非常に重い。

 後のほうに収められている「囲い者マーラ」(1926)と「オルヤツィ村」(1934)は、初期作品だけあってか、暗さと土俗性の異様さが強調され、あまりいいとは言えない。西欧人作家によるゴシック小説で描かれる東欧の描写に、変に影響されてるような気もする。

 それにしても『呪われた中庭』って、日本人受けしないタイトルだよな。なぜこういうタイトルだと、おもんなさそうに感じるのであろうか。

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