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参考文献録

『アラブが見た十字軍』 アミン・マアルーフ 牟田口義郎/荒川雅子・訳 ちくま学芸文庫 1986/2001(1983)
Les croisades vues par les arabes
 レバノン人ジャーナリストがフランス語で書いた本。

 そういえば、こういう本があったのを思い出したのである。出た当時、ずいぶんと話題になったのは憶えている。中学二年の時か。新聞や雑誌の書評を幾つも読んだし、同じリブロポート社の『アラブが見たアラビアのロレンス』は刊行(88年)の一、二年後に読んで、その十年後くらいにも再読してるから、なんとなく『十字軍』のほうも読んだような気になってたんだけど、そういや、読んでなかったのであった。

 同じ「中世イスラム」とはいえ、8世紀半ばの中央アジアと11世紀末以降の中東とじゃ開きがありすぎるので、参照するつもりはなかったんだが、軍事関係の資料のあまりの少なさに……
 いや、すでに数ヵ月前に1冊読んでみたんだが、あまりの内容のなさに、どうせほかもこんなもんだろうと決め込んでいたのである。で、先日、この本のことを思い出したのであった。

 読んでみてよかった。個別の戦いの戦術について、予想以上に詳しく書かれている。時代や場所が違うとはいえ、「前火砲時代の乾燥地帯の戦争」の個別の戦術についてちゃんと書かれた資料は、今まで読んだ中では唯一これだけだ……ありがたくて涙が出そうである。
 それとは別に、内容自体もおもしろかった。フランス人読者向けなので解り易く書かれているし、あくまでイスラム側を中心にしながらも、暗殺教団の跳梁など、西洋人が興味を持ちそうな話題が大きく取り上げられている。
 
 十字軍といえばフランク人(西洋キリスト教徒)の蛮行であるが、著者はそれらを語る時、悲憤慷慨の口調ではなく皮肉なユーモアを選んでいる。そもそも、著者が多分に依拠しているアラブの年代記作家たちの記述が、皮肉なユーモアに満ち満ちているのである。例えば十字軍時代末期、ルイ9世がエジプトを侵略したが敗れて捕虜になる。彼は後に釈放されフランスに帰れたのだが、その際、エジプト人に次のように説教されたのであった。

「なんじのように良識もあり、知恵と教養の持ち主が、どうしてこのように船出して、無数のムスリムが住む地域にやって来たのか。われらが掟によれば、このように海を渡った男は法廷では証言する資格がない」
「それはまた、なぜ」と王は尋ねる。
「頭が少し足りない、と思われるからだ」

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