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参考文献録

『悪魔の詩』 サルマン・ラシュディ 五十嵐一・訳 プロモーションズ・ジャンニ 1990(1988)
The satanic verses
 一言で言って、『真夜中の子供たち』のほうが、ずっとおもしろかった。
 理由はいろいろと考えられる。まず、『真夜中の子供たち』のほうは、如何に混沌としていようと、対象がインド‐パキスタンの内部のものだけに絞られていたため、作品は完全にラシュディの制御下にあった。その手際はまさに魔術的である。
一方、『悪魔の詩』はインド‐パキスタンより遥かに巨大かつ複雑な事物を扱おうとして、結局扱い切れなかったように思える。
 失敗作というわけではないし、作品というのは綺麗にまとまってりゃいいというものでもないけどさ。「巨大かつ複雑な事物」というのは、具体的には「イスラムそのもの」と「インド亜大陸出身で欧化されたムスリムであること」だが、前者は明らかに手に余っているし、後者は後者で痛々しすぎる。
『真夜中の子供たち』で描かれたイスラム(およびムスリム)は、あくまでインド‐パキスタン内部のイスラムだったから、巧く扱えてたと思うんだけど。

 言っても詮無いことだけど、邦訳文もな……。イスラムおよび西洋文化(20世紀前半以前)への造詣の深さは申し分ないと思うんだけど、五十嵐氏の文章は上巻末で自ら言うところの「言語のサラダ」ではまったくないところがな……
 まったくもって言ってもしょうがないことなんだけど、ラシュディが耽溺している現代ポップカルチャーがことごとく取り零されていて、「博士の奇妙な愛情」が「奇妙な愛情先生」なんて訳されてるのを見ると泣けてくる。

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