ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち Ⅱ
Ⅰの続き。ネタばれ注意
人工生命体「妖精」の製造・販売を行う通称「妖精企業」は、妖精を全世界に普及させるため、さまざまな裏工作を行ってきた。そうしたエージェントたちとして、本作では「オブザーバー」と「ディーラー」が登場する。なお、彼らのこの呼び名は、2001年春の某超大国における任務によるものであり、別の任務では別の呼び名が用いられることだろう。
ディーラーは、妖精企業の製品(=妖精)売り込みのための裏取引を担当している。金髪に緑色の瞳の白人青年で、外見年齢は20代前半~半ばを想定。彼の顔を見知っている「牧師」は、若返り処置を受けていると推測しているが、おそらく見た目どおりの年齢であろう。オブザーバーとの会話から、実は有色人種であり、遺伝子操作で色素を薄くしていることが判る。顔立ちや骨格なども変えているかどうかは不明。
オブザーバーは、妖精に対する人々の反応を観察する役割を担当。十二、三歳の金髪碧眼白皙の美少女という外見。ケイシーには「エイプリル」と名乗る。この偽名を選んだ理由は、ケイシーが推測したとおりだと思われる。
ディーラーとの遣り取りから、彼女は若返り処置に加えて相当に容姿を変えていることが窺われる。では、真の姿はどのようなものかというと、私にもわかりません。いつか彼女が再登場する話を書くことがあったら、その時決めるかもしれないけど、現段階では敢えて何も考えていません。HISTORIAシリーズには、原則として「裏設定」は存在しないのです。
ディーラーの態度からすると、「おっさん」というのが一番あり得そうで、その場合、「性転換」は外科手術じゃなくアンドロゲン受容体の不活性化(つまり人為的に男性仮性半陰陽をつくり出す)とかなんだろうなあとか予想はしてますが、どのみち何も決めていません。
私個人としては「おばさん」もありじゃないかと思っています。それも、ディーラーの母親くらいの年齢で、やたらいかついか、痩せてギスギスした感じとか。皆さんのご想像にお任せします。
学校の制服っぽい服にツインテールというスタイルは、『キック・アス』のクロエ・グレース・モレッツから。ただし、もっと可愛い。ヒットガールのコスチュームや私服は可愛かったのに、あの制服姿はいまいちだったなー。
最後に、参考資料のことなど。
私は頭が悪いので、読んだ資料の内容をきちんと憶えていられません。後で確認したいと思うことがあっても、どの資料だったかも思い出せない有様です。『グアルディア』執筆時(2002‐2003)、それで少々困ったことになって以来、読んだ資料で役に立つ、あるいは興味深いと思った情報は片端からノートを取っています。買った本でも図書館で借りた本でも同じようにします。
かれこれ10年近く、そうやって書き溜めた情報は相当な量になります。本作「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち」は、そうした蓄積に拠って書かれたもので、特に本作のためだけに新たに読んだ資料はニューヨークのガイドブックくらいですが、以前に読んだ資料で特に参考になったものを何点か挙げますと、まずタイトルのドミトリ・ベリャーエフの狐の交配実験について知ったのは、6年ほど前に読んだ『本能はどこまで本能か――ヒトど動物の行動の起源』(マーク・S・ブランバーグ、早川書房)で。人間でも同じことができるんじゃないかと考えたのが、そもそもの着想でした。
創造論およびインデリジェンス・デザイン説を批判した本は数多くありますが(ドーキンスとか)、『人類最後のタブー――バイオテクノロジーが直面する生命倫理』(リー・M・シルヴァー、NHK出版)はそれに加えてヨーロッパに多い「無神論的自然崇拝派」(有機食品とか代替療法とかに嵌まる人たち)についても詳しく、参考になりました。反バイオテクノロジー活動家ジェレミー・リフキンの大活躍も、この本で読めます。
「即死させない串刺し刑」については、ボスニア(旧ユーゴスラヴィア)のノーベル賞作家イヴォ・アンドリッチの『ドリナの橋』で知りました。想像力の産物などではなく、ほんとに東欧で行われてたそうです。ヴラド・ツェペシュもこの方法を使っていたのかどうかは確認できませんでしたが、まあいいや。
関連記事: 「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たちⅠ」 「HISTORIAにおける歴史改変」
「亜人」 「連作〈The Show Must Go On〉」
ドミトリ・ベリャーエフの狐の交配実験(wikipedia)
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