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ケイン号の反乱

 太平洋戦争のさ中、掃海艇ケイン号では、任務が急を要さないことや船が老朽化していることもあって、全体に士気が低く規律も乱れていた。そこへ艦長が交代し、新たな艦長クイーグは規律の引き締めを宣言するが、枝葉末節にこだわる上に、自分の間違いを認めようとしないので、まったく人望が得られない。

 以下、ネタバレ注意。
 ハンフリー・ボガードが徹底的に無能な艦長を演じている。1950年代の映画は、現在とは演技や演出の様式が異なっており、単なる様式の問題だとは解っていても、多かれ少なかれ「大袈裟」で「不自然」に見えてしまいがちである。しかしこの作品は、演技も演出も(BGMさえ含めて)非常に抑制が利いている。
 ボガードの偏執的な演技はちょっとした表情や仕草のレベルから非常に巧いのだが、なんでこんなかっこ悪い役が彼に振り当てられたのだろうかと、観ていて不思議であった。共演者が彼より長身の俳優ばかりで固められてるのも、意図的にだよな。

 あまりに無能だし次第に言動も常軌を逸していくので、これは精神を病んでいるのではなかろうかと上級士官たちが疑い始め、ついに副艦長による権限奪取という事態に至る。副艦長は軍事裁判に掛けられるが、結局、誰の目から見ても艦長はおかしいことが明らかになる。
 晴れて無罪となった副艦長を囲んで、皆が祝杯をしていると、裁判を勝訴に導いた弁護士がやってくる。そして、艦長が心を病んでいたのは間違いないが、それは彼が何年にも渡って国を守り続けて神経を擦り減らしたためであり、しかもケイン号で艦長がそこまで追い詰められたのは、副艦長以下、乗組員たちが、一度は艦長が謝罪しているのにそれを受け入れずに彼を疎外してきたからだ、と非難する。そして皆が嫌な気分になったところへ、それもこれも、背後に通信長の暗躍があったからだと解き明かす。
 作家志望のインテリである通信長は、作品のネタにするために、乗組員たちの艦長への反感を煽り、さらに副艦長が無学なのに付け込んで、艦長は心を病んでいるという話を吹き込み、反乱に至らせたというのだ。

 まあ要するに歴戦の軍人には敬意を払え、という話らしい。らしい、というのは、どうにも焦点がぼやけた話だからだ。二時間の作品の最後の最後の数分で、①艦長は英雄であり、心を病んでいるのはその代償である。その彼を蔑ろにしたおまえらはけしからん。②通信長は卑劣で狡猾なインテリである。
 という二点を口早に捲くし立てられてもね。①と②のどっちに重点を置きたいんだかわからないし。今さら、艦長が無能で言動がおかしい人だという印象も覆らないし。

 時系列をひっくり返して裁判の準備を冒頭に持ってきた上で、弁護士を探偵役にして、なぜ反乱が起きたのか、そこに至るまで何があったのかを解き明かしていく構成にしたほうがよかったと思うよ。

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