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ダーク・シャドウ

『スウィーニー・トッド』はいまいちで、『アリス・イン・ワンダーランド』には心底げんなりさせられたのだが、今回はバートン作品としては久々に見応えがあった。バートンの原作への愛情が感じられるという点だけでも、『アリス・イン・ワンダーランド』より遥かにマシである。

 およそ吸血鬼という代物には一切魅力を感じないのだが、まあそう感じる人々(多数派)の感性には文句をつけまい。血なんて不味いし臭いしベタベタするし、乾いてきたら色も汚くなるじゃん。そんなアレなものを吸うクリーチャーのどこが……いや、なんでもありません。
 というわけでジョニー・デップ演じる吸血鬼については、ひたすら「滑稽なもの」として楽しむことにし、後は専ら女優陣を楽しんだのであった。以下、ネタバレ注意かもしれない。

 バートン作品ヒロインの典型は、端的に言うと金髪で目がでかくて痩せてるお嬢様(程度の差はあれ育ちがいい)で、まったく精彩に欠けている。『シザー・ハンズ』のウィノナ・ライダーと『スリーピーホロー』のクリスティーナ・リッチがそうだ。
『ビッグ・フィッシュ』では、現在パートのジェシカ・ラングの存在感でもっているのであって、回想パートでは、やはり綺麗なだけのお人形である(なお、育ちがよくて金髪で痩せてはいるが、ジェシカ・ラング似ということなので目は切れ長)。『アリス』は彼女自身が主人公であって、「男性主人公の恋人」という位置づけではなく、さらに目もどちらかといえば細いが、「金髪で痩せててお嬢様で精彩に欠ける」のは一緒。
『スウィーニー・トッド』では、主人公の娘が「金髪で目がでかくて痩せてるお嬢様」という条件を満たしており、準ヒロイン的な位置にいるにもかかわらず、全然精彩がなく目立たないというところまで合致している。
 この「ヒロイン(男性主人公の恋人)の法則」の例外は『エド・ウッド』とアニメの『コープス・ブライド』くらいか。『エド・ウッド』で脇役で出たリサ・マリーは、この時はヴァンパイラなので黒髪で目が細いが、本当は金髪で目がでかい(もちろん痩せている)。で、バートンが嫁にしたんだよね。

 かと言って、バートンに女性キャラが描けないかというと、そんなことはなく、「金髪で目がでかくて痩せてる清純な若い女」以外の女性キャラだったら、結構な存在感があるんだよね。いやはや。『猿の惑星』では、普通ならヒロインになるであろう「人間」役の女優(スレンダーでもギョロ目でもお嬢様でもないが、金髪である)が全然目立たなくて、スポットが当たってるのはチンパンジーですから(そしてそれを嫁にするバートン。リサ・マリーを捨てて……)。なんなんだ。

 で、今回は主人公の恋人で呪いによって殺されてしまうベラ・ヒースコートも、ものの見事に三拍子揃っていたのでした。彼女が二役で演じるヴィクトリアが、普通ならヒロインとしてもっとスポットが当たっていいはずなのに、全然そうならない。埋没してる。
 この「本来ならヒロインになるはず」のベラ・ヒースコート以外の主要な女優はみんな非常な存在感でした。ジョンソン老婦人も含めて。
 特に強烈なのが魔女役のエヴァ・グリーンで、毒々しさでは『スウィーニー・トッド』のヘレナ・ボナム・カーターすら遥かに超越する。というか、これまでのバートン作品には存在しなかった女の色気を、時に毒々しく、時に滑稽にすら演じ切っているのですが、ここまでやっちゃってるのは、自分が美人であることに絶大な自身を持っているからだろうなあ。

 美人女優が汚れ役を演じるのは、例えばミシェル・ファイファー(今回、家長役)が『スターダスト』や『ヘアスプレー』で演じたような、いわば絶頂期を過ぎた女優の「潔い自虐」と呼ぶべき場合か、もっと若い女優が自分のイメージを払拭したくて挑む場合のどちらかが多いのではないかと思います。つまり、「もう美人女優ではなくなった」か「もう美人女優ではいたくない」。
 しかしエヴァ・グリーンの場合、自分が美人女優であることをまったく否定していなのではないかと。どれだけ滑稽かつ毒々しい役を演じようと、自分が美人女優であるという「事実」には微塵も傷が付かないという自信が凄まじい迫力となって現れ、圧倒されたというか怖かったというか。

 ミシェル・ファイファーは、今回は若作り(および老け作り)せずに、貫録ある女家長を演じていました。ヘレナ・ボナム・カーターは自堕落な心理学者を演じて巧かったけど、「自分とは全然違うキャラクターを楽しんで演じてます」感がうっすら透けてたなあ。気に障るほどじゃなかったけど、
 クロエ・グレース・モレッツが少々肉付きが良くなりすぎてたのは、役作りだよな。ヘッドフォンで音楽を聴きながらホールにふらふら入ってきて、しばらくしてからエヴァ・グリーンがいることに気づいて、びくっとするのが、この年頃の女の子の動物っぽさを表してて巧いなあと思ってたら、本当に動物でしたね。
 いや、まさかそれが伏線だってことはないだろうけど。まったく伏線なしのあの唐突さは、B級っぽさを狙ったのかもしれないけど、いくらなんでもなあ。

 クリストファー・リーが船長役でカメオ出演(吸血鬼役の大先輩だからであろう)。座ってるだけの登場だったが、相変わらず20以上若く見える上に美声も健在。

『スウィーニー・トッド』感想
『アリス・イン・ワンダーランド』感想

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