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るろうに剣心

 原作は連載開始当初(94年)から読んどって、時代もの漫画自体が少なかった当時において明治の剣客ものという変わった題材で、しかもジャンプなのに幕末~明治という時代の矛盾を真摯に誠実に描こうとしている作者の姿勢に好感が持てたのだが、開始からしばらくの間はジャンプにおける位置(文字どおりの意味)が少々微妙で、わりあいハラハラしながら応援していた思い出が……とか言いつつ、単行本は買ってもアンケート葉書は一度も出しませんでしたが。

 というわけで、原作にはそれなりに思い入れがある。大友啓史監督の力量は『龍馬伝』で明らかだし、剣心役の佐藤健も同作品で岡田以蔵を好演していたが、しかし漫画原作を巧く実写化できるかどうかはまた別問題である。
 興味はあるが、残念なものを観せられたらダメージもでかそうなので、友人を道連れにすることにした。彼女は今年30歳のアメリカ人で、高校時代に『るろうに剣心』と出会って以来、日本の漫画やアニメに嵌まり、ついには日本に在住するようになった、という絵に描いたような経歴の持ち主である。来日数年、字幕なしで邦画を観れるくらい日本語も上達していることだし、これは是非とも誘わねばなるまいよ、と。
 まあ実は、彼女は日本に住むうちに漫画・アニメへの興味はむしろ薄れ、廃墟巡りなど別の方向へと歩んでいて、この春に私が誘うまでは、るろ剣実写化の話も知らないほどだったんだけどね。とにかく、駄作だったら二人で冗談の種にしよう、ということで観に行く。

 結果は、私も彼女も大いに満足いたしました。原作の複数のエピソードを巧くまとめてオリジナルのプロットを作り上げているし、原作の主要なテーマである「明治初期という時代の矛盾」もより際立っている。
 特に感心したのが、斉藤一が逆刃刀を指して「己に向いた刃は、やがておまえを苦しめることになる」と述べた台詞で、これは原作にあるべき台詞だった。つまり、少なくともこの台詞をはじめとする幾つかの要素については、映画は原作以上に原作の本質を捉えることに成功している、と私は言い切りますよ。

 その他の要素については、役者がみんなテンション高くて楽しそうなのが良かったなー。学生時代に演劇をやってたんだけど、スタッフ・キャストが一丸になって一つの作品を作り上げる、いい意味での手作り感が共通してて。こういう「楽しんで作ってる」雰囲気がある映画には、つい評価が甘くなってまう。
 いや、龍谷大学がロケに使われてるから余計にそういう印象を受けてまうのかも知らんけど(陸軍省でした)。しかし龍大ロケは近年多いみたいだな、私が在学中はそんな話はとんと聞かなかったものだが。
 キャストはみんな、原作のキャラと似てる似てないというレベルを超えて好演してたけど、高荷恵役の蒼井優だけは、眉まで剃って頑張っても「妖艶な美女」にはミスキャストとまではいかないけど違和感が。まあこれは今までの彼女のイメージがあるからでしょう。蒼井優を全然知らなかった友人は、原作のイメージにぴったりだと感心してたし。
 あと、音楽の使い方が印象的だったな。

 しかしこの映画で最も重要なのはアクションで、比重で言うと半分くらい、最小に見積もっても三分の一は占めてるわけだが、よりにもよってそういう映画を観るのに眼鏡を忘れてしまったのであった。
 視力自体は、普通のドラマパートを見る分には問題ないんだけどねー、乱視だから眼の焦点が合うのが遅くて、動きの速い場面だとついていけない……スローモーションが多用されてることを期待したんだが、ほとんどなかった……これもアクションに力を入れている一つの証明ということでしょう。「ため」すらあまりないんだよね。とにかくみんな物凄くよく動くんで、目がついていけませんでした。もったいないことをした……痛恨の極み。

 この監督とキャストで続編作ったら、また一緒に観に行こうね、と友人と約束する。

「るろうに剣心 京都大火篇」感想 

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