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危険なメソッド

 クローネンバーグ作品は全部観てるわけじゃないが、彼が選ぶ題材は狂気にしろ暴力しろ、どうにも観念を弄んでいるようにしか思えない。
 わかりやすい例を挙げると、『イグジステンス』で描かれているヴァーチャルリアリティのゲーム(RPG)は、ヴァーチャルリアリティとかヴィデオゲームについての観念(偏見)だけを凝り固めたような代物で、あんたヴィデオゲームを楽しんだこと一度もないやろ。
 あと、メタファーがあからさますぎて鼻につくんだよねー。
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 そう思いつつ、クローネンバーグ作品を何本も観ているのはなぜかと言えば、ほかに長所がたくさんあるからである。いや、『イグジステンス』みたいに何もかも駄目なのんもあるけど。
 特に近作の『ヒストリー・オブ・バイオレンス』と『イースタン・プロミス』では、観念やメタファーがかなり後景に退いている。てゆうか、『イースタン』のほうは監督の「ヴィゴ萌え」が全面に溢れ返ってて(それと、億面もないロシアンマフィアのエキゾティシズム)、観念やメタファーが入り込む隙がどこにもなかったってゆうか。なんと言いましょうか、「あられもないモノを見せられちまった……」という感じで少々、いやかなり困惑しましたが、うざい観念やメタファーよりはマシ。
 まともに評価できるのは『ヒストリー』のほうで、圧倒的な暴力描写と、暴力に直面してしまった家族のドラマが素晴らしかった。それでもところどころ、暴力そのものではなく「暴力という観念」や露骨なメタファーが顔を出してはいましたがね。
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『イースタン』のことがあるから、またヴィゴ・モーテンセン出演で、しかもフロイト役なんて、いったいどうなることやらと少々不安だったのですが、今回はクローネンバーグも冷静で、モーテンセンは重要な役どころではあるけれど常に一歩退いた立ち位置で、中心はあくまでユング(マイケル・ファスベンダー)とその患者にして愛人のザビーナ・シュピールライン(キーラ・ナイトレイ)でした。
 ものすごく堅実に作られた映画、という印象が強かったのは、脚本のお蔭でしょう(『危険な関係』でアカデミー賞を受賞しているクリストファー・ハンプトン)。堅実さとは無縁に思えるクローネンバーグなのに堅実だから、余計に堅実に感じるというのもあるんだろうけど。狂気や欲望、異常性愛といった題材自体はこれまでどおりのクローネンバーグらしいもので、ただそれらがひたすら堅実に、かっちりと(つまりメタファーだのなんだのなしに)描かれているのでした。
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 クローネバーグの堅実じゃないところが好きな人は、この堅実さに失望するかもしれませんが、私はむしろ好ましかったです。それにもしかすると、あの「堅実なスパンキング・シーン」等は、笑いどころだったのかもしれん。
 まあ私は即物的な人間ですから、危険な快楽に溺れるのは、心の闇とかじゃなくて報酬系の問題だよなーとか思ってまうわけですが。
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 キーラ・ナイトレイは『パイレーツ』シリーズと『ドミノ』しか観たことなくて(あと、あの女王の影武者)、おお、まともに役作りしてるのは初めて観るぞ。結構作り込んでますね。
 しかしそんなことよりも印象に残ったのは、予想を遥かに超えた貧乳でした……この時代の衣装はハイウエストだから胸の有無がはっきり判るなー、と思いながら観てたら、後半にセミヌードが……
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