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ブラックスワン

 私の感想は誉めてるのか貶してるのか解りにくいんだそうで、今回は特に解りにくいのではないかと思いますが、誉めてるんですよこれは。一応ネタバレ注意。
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 キワモノ映画。しかし監督が最初からキワモノ映画にするつもりで作っているので、キワモノ呼ばわりはなんの批判にもならないのである。
 ミッキー・ロークに当て書きで『レスラー』というのであれば、俳優としてどん底まで落ちた彼を再起させようとする厳しくも愛情ある行為として美談になる。いや、実際には『シン・シティ』や『ドミノ』等で微かとはいえキャリアは上向きにはなってたんだけどね。どん底を脱するきっかけは、『レジェンド・オブ・メキシコ』だろうな。気の毒なくらいしょぼい役で目が死んでたけど。
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 しかしナタリー・ポートマンに『ブラック・スワン』となると、相当微妙である。その時点での彼女のキャリアは確実に行き詰まりつつあり、原因は優等生すぎることだというのもすでに周知となっていた。その彼女に、同じ理由で行き詰まっているバレリーナの役を当て書きというのは、底意地の悪い行為以外の何ものでもない。
 その底意地の悪さは広報を含めて最初から前面に押し出されており、余程素朴でない限り、観客もまた底意地の悪さを共有することになる。
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 という時点ですでにキワモノの要素が強いところに、アロノフスキー監督はこれでもかとばかりに三流サイコホラーの演出を盛り込むのである。あまりに過剰でしつこいので、意図的にやってるのは了解しつつも、ホラー的な演出が大嫌いな私はかなり辟易させられた……のだけれど、クライマックス近くなってポートマンの脚が棒のようにボッキリ折れたり首がにゅーっと伸びたりする悪ノリには、うんざりを通り越して愉快になってしまいましたよ。
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 いやはや、こんなキワモノが感動作扱いとは、世の中には私が予想する以上に素朴な人々で溢れているようだ。ホラー映画的演出を腐した批評もちらほらとは見たが、監督がそういうつもりで作ってるんだから、全然批判にならないって。
 ま、「女苛めたいだけじゃねえか」ラース・フォン・トリアーの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』その他が「泣ける」映画だと信じてる人も未だに大勢いるだろうしね。主演女優を苛めたいだけ、というのはアロノフスキー監督も一緒だが、こちらはその意図を糊塗するどころか前面に押し出しているのが、いっそ清々しい。
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 バレエダンサーの筋肉というのは本当に美しく、最前列の席から眺めるとうっとりしてしまうのだが、バレエを主題とした映画はほとんど観たことがない。予告を見る限りではどれも、血豆だらけで変形したつま先とか傷めた筋とかの「痛さ」てんこもりが予想されるからである(小学校に上がるか上がらないかの頃、そういうドキュメンタリーを見てほとんどトラウマになっちゃってね……)。
 ナタリー・ポートマン自身が痛いし、その彼女に当て書きした役も痛いところに、バレエの痛さまでが加わってるのが、今まで本作を観るのを避けていた理由である。
 で、実際観たところどうだったかというと、役とバレエの痛さは上記の悪趣味な演出に紛れ込み、しかも驚いたことにポートマンも痛くなかったのであった。
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 あまりに悪趣味で馬鹿馬鹿しい演出のお蔭で、自分を客観視する余裕ができたのではないだろうか。まあ監督が彼女のためにそういう演出にしたんじゃないのは確実だが。
 映画ではヒロインは死をもってしか殻を破ることができなかったわけだが、ポートマンはこれまでのいっぱいいっぱいの演技から、余裕のある演技をものにすることができたわけで、いや、よかったね。間違っても美談じゃないけど。
 
 安いサイコホラー的演出は本当にしつこく、途中からはどれだけ「衝撃的」な映像でも、「どうせまた幻覚だろ」とげんなりさせられるだけである。しかし割合初めのほうで、ポートマンが振付師の言い付けどおり部屋で自慰を始め(真面目なので、そんな指示にまで従うのである)、気分が乗ってきたところで傍に母親がいるのに気づく、という場面は、明らかに「現実」である。あそこだけはほんとに怖いよな。
 
 その振付師を演じるのが、ヴァンサン・カッセル。指導と称してセクハラをする屑野郎かと見せて、どうやらそれが本当にダンサーのためになっていると心から信じる熱血指導者らしいのであった。それはそれで頭の痛い話である。
 一部の芸術家(あるいは表現者)が抑制を欠いた性格だからといって、抑制を欠いた振る舞いをすれば芸術家あるいは表現者として成功するわけではない。ということを監督が承知しているのは、落ち目の元プリマの役をウィノナ・ライダーの当てたことからも明らかである。せっかくの才能と築きかけていたキャリアを抑制の欠如で台無しにした、生きた見本だもんな。
 
 それにしても、彼女の今後がますます心配である。ポートマンが捨て身で挑んだ役で見事にステップアップを果たしたのに対して、同じく捨て身で演じたウィノナ・ライダーが何かを得たようには思えないので。ポートマンに当てた役はまだ「底意地が悪い」で済むレベルだけど、ライダーの役は本当に残酷だよ。役では長期間にわたってトップに君臨していたことになってるけど、本人はそこまで行ってないんだから。
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