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ナイト&デイ

 トム・クルーズは何をやってもトム・クルーズで、その最大の原因が強烈なナルシズムであるの明らかだ。それだけだったら最も興味を持てないタイプの役者なんだが、なぜだか彼はその一方で、大好きなはずの「トム・クルーズ」のイメージを破ろうと頑張り続けているのである。頑張っても頑張っても、やっぱりトム・クルーズ。でも彼が本気で頑張ってるのは観ていてわかる。身の丈(文字どおりの意味ではない……いや、文字どおりの意味も含むかも)に合わない役に挑戦し続けるトムを、私はこれからも応援しますよ!

 あとそれから、トム・クルーズのナルシズムはどこまでも陽性で真っ直ぐだというのも、多少は好感につながってるかもしれない。ウッディ・アレンみたいな、押し隠してるくせにダダ漏れな捩じれたナルシズムよりは遥かにマシだ。

 しかしその努力にもかかわらず、「何をやってもトム・クルーズ」の呪縛から逃れ得たのは『トロピック・サンダー』の時くらいである。あれは単に特殊メイクで外見が完全に別人になってたというだけじゃなく、見事に外見に相応しい演技をしていた。
『宇宙戦争』の時の平凡なブルーカラーの役も、実は結構巧い。それでもあれは、極限状態を表現する手段の一つではあるからな。「トム・クルーズでさえ無力な一市民になってしまうほどの極限状態」という。つまり、あくまで「トム・クルーズである」ことが前提。

 そうやって努力が空回りし続けるトムだが、今回は余裕をもってセルフ・パロディを演じている。余裕と言っても、相変わらず多勢に無勢で戦ったり、逆さ吊りにされてりして大変なんだけど。
『ザ・エージェント』と『マグノリア』でもセルフ・パロディ的な役を演じて巧かったが、今回は完全にイーサン・ハントのパロディ。それも、一般人がイーサン・ハントを目の当たりにしたら、どのように見えるか、というキャラクターである。
 どのように見えるかというと、完全にやばい人ですね。『Mi:2』の中であれば不敵かつ爽やかに見えるはずの笑顔も、狂気を孕んでいるとしか見えない。そのことを本人はちゃんと承知して演技しているのである。なのになんで、「何をやってもトム・クルーズ」の殻を破ろうと頑張る演技は、「何をやってもトム・クルーズ」にしかならないんだろうなあ。

 一般人役がキャメロン・ディアス。これも上記と同じリアリズムでもって扱われているので、危機にあっては役立たずどころか完全に足手まといであり、パニックを起こして銃を乱射したりするので、ヒーローであるトム・クルーズによって毎回手際よく気絶させられてしまう。
 本作は「トム・クルーズがヒーロー役のアクション映画」のパロディなので、トム・クルーズのヒーローとしての活躍はある程度描かれるものの、最も激しいアクションが予想される場面は、キャメロン・ディアスの失神によってあっさりカットされている。しかし観客が『Mi:2』 ばりのアクションを容易に想像できるような構成になっており、なかなか巧みである。
 
 キャメロン・ディアスは結構好きなんだけど、私が好むタイプの作品にはあまり出演してくれないので、『チャーリーズ・エンジェル2』以来である。あの時は、あまりにも明るく陽気な笑顔が、すでに薹が立ち始めてるのと相まって、明らかに狂気を孕んでいて怖かった。いや、演技でやってるのは判るんだけど。
 久しぶりに観た本作では、年月の分さらに老けたものの、まだまだ可愛く、相変わらずちょっとドジで素っ頓狂で、つまり『メリーに首ったけ』以来の、「頑張れば手が届きそうな親しみやすい美人」役である。老けた分、さらに手が届きやすそうになったかもしれない。つまり彼女の役も、これまで演じてきた役のパロディなのである。
 あくまで一般人の役なので今回は「狂気を孕んだ笑顔」は無しかと思われたが、巻き込まれるだけだった彼女が最後に居直って行動を起こした時に浮かべる笑顔は、まさしく狂気を孕んでおり、つまり「美人だけど、ちょっとドジで素っ頓狂で親しみやすい」キャメロン・ディアスも、「ヒーロー」トム・クルーズと同じくらいやばい人でした、というオチなのであった。

 かように主役2人のための映画であり、構成も巧みなんだが、脇役に見るべき役者がいない。悪役が類型的なのは様式美だとしても、おもしろみがないのは如何ともしがたい。ポール・ダノがオタクで天才の高校生役というのも、年齢的にさすがに無理があるというのはさておき、あまりにも捻りがない。
 しかしポール・ダノと言えば、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』では、つるりとした外見全体から得体の知れない粘液が滲み出ているような気持ち悪い奴、『リトル・ミス・サンシャイン』の変人高校生役は、ちょっとネトっとした質感だが若いし風呂にあんまり入ってなさそうだから、という程度だった。つまり、役に応じて「出し入れ」自由らしい。
 この推測を裏付けるように、脇役に徹した今回は、「ネトネト」が全然出ていなかったのであった。巧さの証明ではあるが、おもしろみはない。

 キャメロン・ディアスにプロポーズする消防士が、出番は少ないが結構巧かった。特にプロポーズの際、完全に自分に酔っていて、一方、「ヒーロー」トム・クルーズに遭遇してしまったショックから未だ醒めやらぬキャメロン・ディアスが「私の話を聞いて」と遮ると、すっごく不満げに口を噤むとことか。

『トロピック・サンダー』感想
『ワルキューレ』感想

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