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戦火の馬

 ネタバレ注意。

 あらすじだけ取り出してみると、解りやすい感動作といったところである。しかも、きょうび「どの国の人間も母語を話す」ハリウッド映画は珍しくないというのに、フランス人もドイツ人も当たり前のように英語を母語としている点からして、あからさまに自国での大ヒットを狙っている(アメリカの大衆は字幕を読めない)。

 なのに、ところどころ「解りやすい感動作」の枠には収まらない異様さが散見するのだ。
 序盤は「感動作」として、まったく問題ない。少年と馬が出会い、友情を育む過程が、陳腐なまでにまっとうに、そして凡庸な監督には真似できないような美しい映像で綴られる。
 この後、馬は売り飛ばされ、人間のせいで散々苦労するけど最後にはめでたく元の主人と再会できる、という『黒馬物語』みたいな展開が待ち受けている。何しろ第一次大戦なので、並大抵な苦労じゃないのだが、それだけならまだ「感動作」の範疇である。

 まず、馬を買ってくれた大尉殿の死から、異様さが露呈していく。野営地を奇襲されたドイツ兵が恐慌を来して森に逃げ込むのを英軍騎兵隊が馬蹄を轟かせて追っていくと、そこで待ち受けているのは機関銃である。
 雄々しく馬を駆るエリート騎兵たちのカット→軽快に弾を吐き出す機関銃のカット→次々と森に駆け込んでくる馬たち。その背には誰も乗っていない――というシークエンスは、どうにも只事ではない。騎兵たちの死はおろか、死体すらも画面には登場しない。そのようにして、「良い人」の大尉殿の死もまったく描かれないのである。
 続いて馬はドイツ軍の所有となるのだが、その世話を任された、これも善良そうな兄弟は、脱走の罪であっさり銃殺される。そしてその次に馬を手に入れたフランス人の少女も……
 
 まあ感動的な外面と細部の無慈悲さのそぐわなさは、非常にスピルバーグらしいと言えば言えるんだけどね。

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