もうひとりのシェイクスピア
ローランド・エメリッヒというと、『インディペンデンス・デイ』を観て、てっきり『スターシップ・トゥルーパーズ』のごとくアメリカ礼賛に見せかけてアメリカをコケにした素晴らしい風刺映画だと感心したんだが(同じヨーロッパ人監督だし)、後にどうも何も考えずに撮ったらしいと知って、著しく評価が下がったものである。
その後の作品も、「大味」「何も考えてない」という評価を固めるだけであったが、久しぶりに観たエメリッヒ作品である本作は、大味ではないし、よく考えて作られている。いや、もしかしたら、よく考えたのはほかのスタッフやキャストたちであって、監督本人は相変わらず何も考えていないかもしらんけど。
シェイクスピア別人説の一つ、オックスフォード伯説に拠る。この説自体の妥当性についてはどうでもいいが(別にいいじゃん、シェイクスピアの「正体」が誰だろうと)、よくできた映画である。
しかし脚本は考えすぎというか、構成に凝りすぎて、4つもの時間軸(現代、ジェームズ1世の治世初期、その5年前のエリザベス1世治世末期、さらにその数十年前)が詰め込まれることになり、煩雑に過ぎた。もう少しなんとかならなかったものか。
オックスフォード伯が、なんだかえらく久しぶりなリス・エヴァンス。奇矯な役ばかりという印象だったんで、歴史もので、しかも正統派の演技をしてるのには驚いた。そのリス・エヴァンスの青年時代を演じた役者は全然似てないが、エリザベス女王役のヴァネッサ・グレイブスとその若かりし時代を演じた女優は結構似ている。
多くの役者がいい演技をしていたが、しかし脚本や役者よりも何よりも、細部の描写がいい。ロンドンの通りは晴れの日でもぬかるみで、エリザベス女王のドレスは待ち針状のピンで止めて着るのである。
以下、ネタバレ注意。
オックスフォード伯がベン・ジョンソンを「見込んだ」理由がよく解らん。「文体などない」と言っていたから、それが理由だと納得していたら、最後になって「きみに一番評価してもらいたかった」と言い出すし。しかしベン・ジョンソンの才能を認めたような言動は、一度としてしていない。
女王の侍女との間にできた子の消息が不明とされていたので、最後の「きみに一番評価してもらいたかった」発言で、じゃあベン・ジョンソンがその子だったのかな、と思ったら、そういう展開にはならなかった。結局、なんだったんだ。
あと、オックスフォード伯の「出生の秘密」はさすがにやり過ぎ。
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