等級制――システム
連作〈The Show Must Go On〉(『ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち』)に関する設定記事は、ひとまずこれで終わり。最後なので、ほかの設定記事にも増して、仁木本人のための覚書です。なお、本シリーズには原則として「裏設定」は存在しない。つまり作中で明記されているか、文脈から推測できる以外の設定は存在しません。
等級の変更は自由で、比較的簡単にできる。ただし軽はずみな者(特に未成年)が無闇に等級を変えないよう、一度等級を変えたら数ヶ月は留まらねばならない、とかいうことになってるんだろう。等級変更の条件も、未成年のほうが厳しいはずだ。×歳までは親の許可が必要、とか。
等級零
生まれたままの「自然のまま」の姿だとされるが、これはもちろん建前。「生まれたまま」なのは事実だが、すでに配偶子の段階から(必要とあれば出生前の各段階でも)遺伝子の選別と修正を受けている。出生後は額皮下に個人番号を記されるほかは、一切の肉体改造は禁止。刺青やピアスなど「伝統的」な改造(身体加工)も同様。医療行為は「人間として在るべき姿に戻す」ためのものであるから、その限りではない。額のスティグマ(認証印)はないため、「無印(ムジルシ)」と通称される。
所属する村またはバンド(移動生活の集団)でしか生活できず、支給されるクレジット額は当然ながら最も低い。受けられるサービスも非常に限定されている。成人(二十歳以上)であっても「伝統産業」(農業・漁業・狩猟採集などのほか必需品の製作など)に従事する以外の就業は禁止。
子供はすべて村(または移動民のバンド)で生まれ育つ。初等教育もそこで行われる。一級に昇級できるのは、就学時の一、二年前くらいか。本人の希望と両親の許可が必要。
制度上は中学校入学時まで零級のままでいることが可能だが、そんな子供はまずいない。一級以上に昇級しているほかの子供たちとの付き合いに支障を来すし、保護者(両親および祖父母など)も子供に過度の禁欲を強いていると非難されることになる。
中学入学以降、再び零級に戻れるのは、17、8歳くらいか。そこまで降級すれば村/バンドで生活することになる。ただし、そういう若者はまずいないだろうし、いたとしても、どこか問題があると見倣される。
零級の子供にクレジットが支給されるかは不明。されるとしても、小遣いレベル(これはすべての未成年あるいは18歳以下に共通)。当然、一級より少ない。
大人も子供も、個人端末は持てないが公共端末は使用できる。使用時間、閲覧可能な情報等は制限がある。
移動生活民の場合は、ルート上に情報機器や医療機器を備えた施設が幾つも設けられていると思われる。
「パン」(クレジット)と同様、「サーカス」(亜人同士の殺し合いという見世物)はすべての成人に供給されている。零級でも成人は公共端末でそれらを視聴できるだけでなく、都市や町にある闘技場まで赴いて見物できる(頻度は制限されている)。
端末で視聴できる戦争や闘技のニュースおよび派生作品の内容や量は、等級と年齢に応じて細かく制限されている。
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等級一
スティグマのデザインは額中央の縦長の種。ちなみにスティグマの色は地肌と明確に区別できる色なら何色でもいいが、イリデッセンス(虹色。真珠貝やモルフォ蝶のように角度によって変わる色)みたいに複雑な構造が必要な場合は、等級が高くないと無理なんだろうなあ。
上述のように未成年は5歳くらいから。中学入学時には必ず二級になっていなければならない。17、8歳になるまで一級以下に戻れない(たぶん)。
成人も未成年も、町と都市に住むのは禁止。
クレジット支給額とサービスの量や内容は増大。遺伝子改造は不可(「サイボーグ化」も軽微なものであっても遺伝子改造が必要)。ピアス、刺青などの身体加工は可。
これらの身体加工は無痛で施されるが、「伝統」として行われない社会では、子供はこの等級を飛ばすことが多い(と思われる)。
村またはバンドでの「伝統産業」従事者以外、つまり小学校教師や医師、あるいは役場や店舗がある場合はその就業者は一級以上であることが条件。ただし一級以上であっても、それらの職に就かなくてもいい。
この時代、20世紀以前に成立したスポーツはすべて「伝統文化」であり、スポーツ選手はプロアマ問わず、「伝統文化のパフォーマー」となる。彼らの中には、能力増強されていない肉体で「限界に挑む」ことを好む者もいると思われる。村/バンドによっては特定のスポーツを「伝統文化」として選択しているところもあるので、そのスポーツを「極める」ためにわざわざその村の住民になる者もいるかもしれない。
「肉体の限界に挑む」ために零級や一級に留まる者として、ほかに人里離れた自然を保護監視するレンジャーもいるだろう。
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.等級二
スティグマは額中央の種から、小さな蔓と葉が芽吹いているデザイン。等級が上がるほどに蔓草模様が複雑になっていく。
未成年は5歳から12歳の間のいつかに昇級可(正確な時期は未設定)。たぶん高校入学時には一律に三級以上になっていないといけない。
出生前の遺伝子選択と修正で、人間の能力は均質化が進んでいる。なお、出生前の能力増強は禁止だが、身体能力や音感などをちょっぴり強化するくらいの抜け道はあるかもしれない。しかし知能増強の遺伝子は、明らかに各種の神経疾患と結びついているとして禁止対象となっていると思われる。「創造性」の遺伝子も双極性障害との結び付きから同様であろう。
能力と教育の均質化が進んでいるとはいえ、個人差は尊重されるので、一、二年くらいなら飛び級はあるのではないかと。その場合でも、中学入学は二級以上といった諸条件は満たさなければならない。
二級の成人は村/バンドと町のどちらでも生活できるが、未成年は中学入学前は村に、入学後は親元を離れて最寄りの町に住まなければならない(17、8歳になればたぶん村に戻れるが、そういう禁欲的な性向は以下略)。
遺伝子改造はこの等級からだが、ごく軽微。個人端末やペルソナ(仮人格)の使用権もこの等級から。ペルソナはハンドルネームのようなものだが、ネット上以外でも使える。何をするにも個人番号を認証され、匿名活動が事実上不可能な社会にあって、ペルソナの利用価値は高い。無論、ペルソナ取得にも認証は必要なので、不正行為は不可能。
同人活動すなわち二次創作の公開ができるようになるのもこの等級から(この時代、完全にオリジナルな創作というものは廃れている)。二次創作作品を販売できるのは、きっともっと等級が高くなってから。
同人活動は実名でもできる。とはいえ成人は実名を自由に変えられるし、プロフィールの基本情報(性別、生年、出身地)を非公開にすることもできるから実名でも問題ないが、未成年はそういうことができないので、ペルソナ取得が必須だろう。
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等級三
都市には住めない。昇級は十歳くらいからだが、十二歳以下で三級まで昇る子は、飛び級と同じく少数だろう。この等級の中学生は、地元以外の中学校に進学できるとか。
上述のように高校入学時に三級以上に昇る義務が(たぶん)あるが、それ以上の昇級は義務ではないので、その気があれば一生三級以下でいることも可能。
ただし、過度の禁欲も貪欲と同じく「廃絶すべき旧人類的気質」と見倣される。子供を持つには村またはバンドでの生活が必須だが、前提条件として一度は五級以上を体験しておく必要がある。
未成年の就業については設定を決めていないが、年齢や等級による制限があるのは間違いない。アルバイトは十五歳以上、三級以上、とか。
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等級四
この等級から村に住めなくなる。つまり、子供を持ちたければ三級以下に降りるしかない。
脳へ知識を「刷り込み(インプリンティング)」する技術により、この時代の学校教育は刷り込みした知識を実技と討論によって磨き上げることを旨とする。運動技能(非陳述記憶)は実際に身体を動かさないと身につかないので、刷り込みは補助程度にしか役立たないし、知識(陳述記憶)も長期記憶化するには情動と結びつけることが重要だが、人間の辺縁系を直接刺激することは禁じられている(それは亜人に隷属を刻み込む技術である)ので、実技と討論は絶対不可欠である。
このように教育方法が簡略されたのに、全日制の学校制度が残されているのは、これもまた「伝統文化の保護」である。
たぶん四級くらいから、毎日学校に行かなくてもよくなるとか、そういうことなんだろう。
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等級五
十四、五歳から。 十八歳未満はそれ以上の昇級は禁止。成人も未成年も、町および都市の旧市街に住める。
この等級から、本格的な遺伝子改造が可能になってくる。能力増強などは外見から判別できないため、それを行っていることを示すための「装飾改造(デコレーション)」も派手なものとなってくる。
未成年でも、闘技場への入場が許可されるようになる(後ろの席しか取れないとかなんだなろうな)。
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等級六
十七、八歳から。都市旧市街に居住可。町に居住可かどうかは不明。
「低等級(ローグレード)」はこの等級まで。いろいろサービスは受けたいけど高等級にはなりたくない、という理由で五級や六級に留まる者は少なくない。
戦争のライブ映像の視聴は、たぶんこの等級から許可。ライブ映像といっても、戦闘の撮影は多数の「蠅カメラ」によって行われるので、どんな場面が配信されるかは、あらかじめ等級別に編集プログラムが組まれてるとか、そういう感じ。
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等級七
この等級から「高等級(ハイグレード)」となる。未成年が高等級になれるかは不明だが、なれるとしてもこの等級までだろう。
旧市街も新市街も居住可。町はたぶん不可。サイボーグ化が許可されるのはこの等級から。
サイボーグ化の定義は「異物(非自己)から成る機器の神経系との接続」。異物にアレルギー反応を起こさないよう、あらかじめその素材に対する免疫寛容を作り出しておくことが必要。
神経系との接続が不具合を起こすリスクに加えて、免疫寛容処置が免疫系を攪乱してしまうリスクがあるため、サイボーグ化は高等級にしか許されていない。前者のリスクの高さがどの程度かは不明だが、後者の例は一度もなかった(22世紀末になるまでは)。
しかしサイボーグ化がアレルギーを引き起こし、時として重篤な症状となることは、亜人の例から明らかだった。つまり、亜人にはいちいち免疫寛容を作る処置を行わないのが普通なのである。でも高価な特注品には、きちんと処置をするんだろう。
また闘奴(闘技専門の戦闘種亜人)の中にはサイボーグ化される者もいるが、これも免疫寛容の処置が行われるのは人気のある個体だけだと思われる。
サイボーグ化は埋め込み(インプラント)から器官交換まであるが、七級と八級に可能なのは末端神経系への埋め込みのみ。七級では感覚器官への埋め込みも不可だろう。
七級が就く職業で多いのは、戦争業界のほかは自然保護監視官(レンジャー)など。高山や極地、海洋など過酷な環境に特化した身体改造を行うのである。
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等級八
都市にのみ居住可。サイボーグ化については等級七を参照。
八級以上が自然保護監視官や研究者として人里離れた場所で生活することが許可されているかは不明。たとえ許可されているとしても、そのような環境ではせっかく高等級に許されているサービスの多くが利用できないし、概して等級が高いほど都市生活を好む傾向がある。
なお、上述の特別な職種以外で村/バンド、町、都市以外で生活することは、等級にかかわらず禁止。
「The Show Must Go On!」の主人公アキラがこの等級(後に九級に昇る)。彼の改造は額の「第二の両眼」である。額にバイザーを装着しているのは、脳を保護するため(第二の両眼も脳に神経接続されている。つまり新たな眼窩の部分は脳を保護する骨がないのである)。
バイザーをコンピュータ画面とし、第二の両眼をその情報の読み取りに特化させているのは、あくまで後付けの機能である。たぶん、あからさまなプロテクターを装着するのはかっこ悪いというような価値観があるんだろう。
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等級九
都市にのみ居住可(旧市街にも住める)。中枢神経系への機器埋込みや、臓器や手足などを部分的にサイボーグ化することも可能。
高等級は半ば自嘲的に半ば誇らしげに「廃人(ハイジン)」と称することがあるが、自他ともに真にそう称することができるのは九級以上だけ、という暗黙の了解がある。
戦争の勝敗は全成人の投票によって決められるが、兵士の運命は九級と十級の視聴者による人気投票で決められる。闘技でも人気投票はあるが、等級によって投票権に制限があるかどうかは不明。
八級と九級は戦争業界に集中している。そのため業界外とは逆に、業界内では低等級がかえって珍しいという事態になっている。
村や町の住民が高等級を目にする機会は 都市「体験学習」(事実上の観光)の際か、自然「体験学習」で行った先に偶々高等級のレンジャーがいたとか、あるいは高等級が村や町に「体験学習」に訪れるとか、その程度しかない。等級が高いほど数も少ないので、九級が体験学習などで村を訪れたりすると、大人はともかく子供たちは大騒ぎをする。
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等級十
廃人中の廃人。新市街にしか住めない。概して人付き合いを嫌うため、就業している者はほとんどいない。ただしアマチュア創作者すなわち「同人作家」は多い。彼らは戦争業界の周辺部に位置しており、業界人すなわち戦争屋と多かれ少なかれコネクションを持つのだが、それでも直接顔を合わせることは滅多にない。
村/バンドの生活が理想とされているため、町や都市の住民も三年に一度は村/バンドでの「体験学習」を行うことが義務付けられている。十級がこの義務に従う時は、面倒を避けるため一時的に九級に降りていくのではないかと思われる。この場合の面倒とは、好奇の目に晒されるとか、十級は下の等級より村/バンドで受けられるサービスが限定されているとか。
そういうわけで、十級を一度でも目にしたことのある者は、十級それ自体と同じくらい少ないかもしれない。
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