ユナイテッド93
9.11にハイジャックされた4機の旅客機のうち、1機だけは目的地に到達せずに墜落したのだが、乗客たちが機内に掛けた電話などから、彼らがハイジャック犯たちを阻止しようと行動したことが判っている。それらの記録や、乗客たちに関する遺族の証言などに基づく再現ドラマ。
情報は皆無ではないとはいえ、ほんの少ししかないのだから、実際には再現ドラマの体裁を取った「見てきたような嘘」にならざるを得ない。それを承知で敢えて映画化したのは、この極めて断片的な情報から、乗客たちが抵抗したことが判っているからだ。犠牲者たちが死の前に、ほんの少しでも「何か意義のあること」ができたという事実は、犠牲者の遺族や親しかった人々だけでなく、9.11に大きなショックを受けた人すべてに、現実を把握しなおす文脈を与えることができるからだ。
人間がどう解釈しようと、世界は少しも変わらないんだが、人間にとって解釈のできない世界で生きていくことは非常に困難だ。
身も蓋もない言い方をすればそういうことで、娯楽性を極力排除した作りになっているのが救い。
機内の状況はともかく、並行して描かれる地上の状況は本当に再現ドラマで、航空会社や軍の何人かは本人が演じている。こちらに関しては、まるきり『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』(ジェームズ・R・チャイルズ 草思社)を地で行っていた。
つまり、完璧に機能していたシステムが、「想定外」の出来事によって、次から次へと不備が明らかになり、崩壊していくという。で、その「想定外」というのも、実はそれほど想定外でもないことがほとんどなのである。
ハイジャックした旅客機で自爆テロ、などという事態は確かに想定外以外の何ものでもなく、後手に回ったのは仕方がないが、ハイジャックだけだったら充分想定のうちだからな。つくづく遣り切れない。
ところで、乗客の人物造型には遺族らの協力(情報の提供)を得ているそうだが、ほんのちょっぴりしか登場しない「その他大勢」になっている乗客は、人物造型の手掛かりになる情報が得られなかったんだろうか。それだけならまだいいが、終盤、乗客たちの決起計画をハイジャック犯に知らせようとする乗客がいるんだが、あれも遺族の「協力」の結果なのか?
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