シンデレラマン
ジェームズ・ブラドッグは将来を嘱望されたボクサーだったが、株に手を出した直後に大恐慌が起きる。以後、少しでも稼ぐために無理なスケジュールで試合をこなさなければならなくなり、怪我が多くなり、負けが込み、賞金は少なくなり、という悪循環で、大恐慌4年目にして、とうとうライセンスを剥奪される。
以下、ネタバレ注意。
何年も試合から遠ざかっていたボクサーが、代役として急遽出た試合で勝利を収め、その後もトントン拍子で勝ち続け、ついにはチャンピオンになってしまう、という嘘のような本当の話。
とはいえ、何年も試合どころかトレーニングさえしていなかったのに、いきなり勝ててしまう、という件に関しては「奇跡」ではない。身体を使った技能(スポーツや楽器演奏など)にある程度熟達した人は、イメージトレーニングだけでも実際のトレーニングに近い効果を得られるようなるんだそうな。運動をイメージするだけで、高次運動野がそのとおりに活動するようになるからだ(正確な動きをイメージできる程度に習熟している必要がある)。
だからブラドッグが何年ものブランクの後でも勝つことができたのは、彼がその間ずっと「ボクシングをする自分」を思い描き続けていたからだということになる(当時はイメージトレーニングなんて知られていなかっただろう)。つまり勝てたのは、奇跡でも強運でもなく文字どおり意志の力のお蔭だったわけで、そのほうが遥かに感動的である。
『戦場のピアニスト』でエイドリアン・ブロディがトーマス・クレッチマンの前で見事な演奏を披露できたのも、同じ理由からだな。
ブラドッグを演じるのがラッセル・クロウ、その妻がレニー・セルヴィガー。どっちも嫌いな役者で、単体だけならまだしも二人揃ってるなんて耐えられそうもない、というのが今まで敬遠していた理由だが、偶々観る機会があったので。
クロウを嫌いな理由は暑苦しいからで、セルヴィガーを嫌いな理由はこれ見よがしに「どう、巧いでしょ?」な演技だからだが、本作では二人ともその嫌な部分が抑えられている。特にクロウは暑苦しさがまったくなく、『L.A.コンフィデンシャル』以来である。しかもコミカルな場面ではちゃんとコミカルな演技をしてたし。
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